■ 22

 真っ白な病室に名前が深く眠ったまま動かない。黒子はベットに背中を預け、床に座っていた。
 何故、名前が黒子に手を下させなかったのか。答えは何となくだが解りきっている。
 浅い呼吸がベットから漏れだす。火傷一つ付いていなかった名前の体は爆風の切り傷しかなかった。
 一方の緑間は即死だというのに。謎も残りつつ、やるせない気持ちが黒子の中に溜まっていた。

「(ボクは家族すら、守れない。…いや、名前さんを利用している時点で家族ですらないか)」

 黒子は膝を抱えて縮こまる。来年になれば17歳。この歳で階級のある軍人は珍しい。はっきりいえば黒子は史上最年少の少佐なのだ。
 ある意味孤独に寂しさを覚えてすらいる。眼帯を新しいのに変えると立ち上がった。
 黒子は病室を出て行く。そんな黒子を名前の目線が追い掛けた。












Act22













「危なかったっスね」

 黒子がいた反対側に黄瀬が立っていた。

「…何が?」

「だぁから、緑間っちとの戦闘っスよ」

「あぁ…、緑間さんね…。うん。正直死ぬかと思った。というより死んだと思ってたよ」

 黄瀬は呆れ顔で名前を見る。

「まさか俺のピアスがマジで効くとは思わなかったっスよ」

「緑間さんのおまじないのこと?」

「知ってたんスね」

 緑間から最後に聞いた話である。
 名前は目を閉じた。

「ねぇ。私に涼太が知っている範囲で良いから契約者について教えて…」

 黄瀬はベットに腰掛ける。

「そうっスねぇ…。契約者を全員殺したら願いが叶うっス」

「…知ってる」

「願いを叶えるには代償がいるっスよ」

「…知ってる」

「ほとんど知ってるじゃないスかぁっ!!」

 名前は溜め息をついて目を開けた。

「そうじゃない、他にどんな契約者がいるのかって話」

 そう言うと黄瀬は納得したような動作をして頷いた。

「残りの契約者は三人っスよ」

「少なっ!!」

 黄瀬は顔をしかめた。

「契約者はもう日本にしか残っていないっス。最初は数え切れないくらいいたんっスよ」

「そんなに?」

「契約者が現れたのは2年前。ちょうど俺や黒子っちたちがスラムでドロボーやってたときっス」

「あぁ、キセキの世代ね」

 名前はだるいのか適当に頷く。

「それで俺たちは盗んだお金で世界を周って、しらみつぶしに契約者を潰していったんスよね」

「ストップ。じゃあキセキの世代って全員、契約者?」

「そうっス。残りは青峰っちと紫原っちと赤司っちっスね」

「あ、赤司さんまで!?」

 あまりのことに名前は絶句する。よく殺されなかったな、と我ながら思う。

「黒子っちはノーマルだと思うっス。能力を使ったとこ見たことないっス」

「はぁ…。テツヤが契約者なら卒倒してたよ」

 黄瀬は頭をガシガシと掻いた。

「あー…、でも裏では悪どいことしてたみたいっスよ。軍には目をつけられてたし…」

「軍に?でもテツヤ自信が軍人だよ」

 黄瀬は窓から見える青空を眺める。

「木を隠すなら森。黒子っちは暗殺が得意っス。暗殺者は姿を見られたらいけないんス。おまけに影が薄いっスから、巷じゃあ透明人間って呼ばれてたっスね」」

「テツヤが?影が薄い?ない、ない」

「ホントっスよ。それにナイフ一本で外国の契約者と互角に闘ってたっス」

「ありえないでしょぉー…」

 名前は黄瀬に背を向けて寝返りを打つ。

「それとっ!!」

「何よ」

「いつまで狸寝入りしてんスか!!黒子っちが心配してるっスよ」

「いや、目ェ覚めたのはさっきなんだけど」

「え?寝たふりじゃなかったんスか?」

「違う」












***











「あ、いけませんよ。逃げちゃ」

 総指揮官の死体が横たわり他にも数名の血濡れの人間が床に落ちていた。
 水色の髪の毛が揺れ手に握られたナイフが知らない誰かに突き刺さる。

「ジ・エンド…、」

 似合わないが英語を言ってみる。
 黒子は、やれやれと首を振ってナイフを捨てる。空中で舞うナイフは何回転かしたあとに跡形もなく砕け散った。それは黒子の能力の特徴でもある。
 そして一息ついて、黒子の顔は驚愕の顔に染まり、絶叫した。

「誰かぁ!!総指揮官が!!」

 すぐに駆け付けたのは黒子直々の部下だった。

「どうされたんですかっ!?」

「総指揮官が!至急、救急車を!!」

 騒ぎをききつけた軍人がワラワラと集まる。黒子は影でニッと笑った。つられて部下も笑う。












***












 病室の引き戸を開ければ日本史の本を呼んでいる名前がいた。

「名前さん、目が覚めたんですね」

「あ、テツヤ」

 黒子の抱えている花を見て少し嬉しそうにする名前。

「名前さん、…心配しましたよ。その、……緑間くんは」

 花を花瓶の横に置き椅子に座りながら語る。しかし名前は笑いながら黒子を見た。

「即死、でしょ?」

 黒子は驚いたような顔をすると、はいと返事をする。

「……それはともかく、なんであんな危ないことを…!!」

「そんなの、テツヤは気づいてるじゃん。テツヤが一番知ってる」

 名前はパタンと本を閉じて横目で黒子を見た。

「どういう意味ですか?」

「……テツヤがこのままだと壊れちゃう。キセキの世代は私が倒す」

 黒子はガタッと椅子から立ち上がる。

「どうしてキセキの世代を名前さんが…」

 名前はベットから飛び降り、窓の前に立った。振り向き様、名前は淡々と言う。

「友達が教えてくれたの」

「…友達?」

「そうだよ。名前は黄瀬涼太くん」

 黒子は目を見開いた。

「…は?黄瀬くんは死んだはずです…」

 名前はクスクス笑いながら近づいてくる。

「何言ってるの?涼太はここにいるじゃない」

「なっ、…ありえませんっ!!」

 一歩、一歩、踏み締めるように名前が近づく。
 後ずさる黒子を名前は嘲け笑うかのように言い放った。冷や汗が流れる。

「テツヤも契約者だよね?なら、…結局殺すんだし、良いよね?」

 うそだ、と呟き、背後に人の気配がした。慌てて振り向くと、見知った顔があった。

「そうだよ、名前っちの言うとおり俺はここにいるっスよ?」

 確かに黄瀬なのに血まみれで、黒子が殺したあの時のままの容姿をしていた。そして名前の影が黒子に重なったと同時に視界が真っ赤に染まった。











 そこで黒子は目を覚めた。
 いつもの自分の部屋。全身は汗で濡れていた。

「はぁっ…、はぁっ」

 ベットから起き上がると名前がいないことに気がつく。あの爆発から二日。今頃、病院で寝ている。

「ヤな夢…」

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