■ 20

「涼太、ずっとここにいるの?」

「まぁね」

「寂しくない?」

「大丈夫っス」

 別れ際になって名前は名残惜しく感じてしまう。黒子と別行動をするときもだがどうしても離れるのが辛いのだ。

「また来るからね」

「ありがとうっス。それと一つ」

 黄瀬は腰を深く曲げ名前に耳打ちをした。身長が高い彼に合わせることは出来ないけれど少しばかり背伸びをしてみた。

「黒子っちを………とめてほしいっス」

「え…?」

「俺が望むのはまた皆で笑い合える日が再び訪れることっス。俺は契約者としてゲームに勝ってあの日が訪れることを願うつもりだったっス…。願いが叶わなかったからきっと今こうして…」

 ザァッと乾いた風が吹いて視線をあげると黄瀬は消えていた。暖かい視線も笑顔も見当たらない。
 名前は不安になりながら視線を彷徨わせた。

「あれ…?涼太?どこ?」

 しかし、フラフラと見渡す墓地には黄瀬の姿は無かった。












Act20














「ちょっ…」

 名前はそこらじゅうを探す。ベンチや公園の出入り口、遊具。いろいろなところを見た。

「涼太ー?」

 心配になって叫んでみると、

「ごっめーん!風がいきなり吹いたから飛ばされちゃったっス!!」

 後ろからひょっこり出てきた黄瀬。名前は心配して損したと思って、冷たい視線を投げかけた。

「………帰ろ」

「ちょっ!?」

 黄瀬はそそくさ歩く名前を追い掛ける。待ってっスと慌てている。
 名前が歩みをとめて振り向かないで言った。

「涼太、たまに話を聞きに来ていい?」

 横目で黄瀬を見た名前の目は真剣そのもの。
 黄瀬はそれに一瞬ポカンとしてクスリと笑う。

「…いいっスよ。役に立つなら。それと」

 黄瀬はポケットから小さな布切れを取り出す。

「…?」

「お守りっス」

 布切れを広げると小さな銀色のモノが見える。

「なに?コレ」

「ピアス。俺とお揃いっス」

 微笑む黄瀬から受け取るとキラキラ光るピアス。

「どうやって付けるの?」

「耳に穴開ければ付けれるっス」

「穴っ!?」

「大丈夫。痛くないっスから」

 今度こそお別れと言わんばかりに黄瀬は消えた。












***












 家に帰れば黒子は私服で紅茶を飲んでいた。しかもまたパンツ特集を見ている。いつもパンツ特集を見て悩んでいるのは無意識なのか。

「テツヤ、ただいま」

「あ、おかえり。どこ行ってたんですか?」

 黒子はパンツ特集を閉じて微笑む。パンツ特集さえなければ、格好いいのにと思ってしまう。

「化粧品屋さん行って、涼太の墓参りに行ってたの」

 黒子は一瞬、顔をしかめた。

「涼太…?」

 呟きは名前には届かなかったが口元は動いた。名前はそれに気づいたが、独り言だと片付けた。

「テツヤは用事済んだの?」

「え?あぁ…、はい。少し友人に会って来たんです」

「へぇー…。彼女ぉ?」

 ニマッと笑って名前が迫れば黒子は顔を真っ赤にして否定する。

「ち、違います!!というかその人は男ですからっ」

「なぁーんだ」

 名前はティッシュを一枚取り鼻をかむ。

「そろそろ秋服や冬服を買わなければいけませんね」

「いいよ。めんどくさいし」

「雪降りますよ?秋も寒いですし」

「それよりもさぁ…。ピアスの穴を開けたい」

 黒子は眉を寄せた。

「…ピアス?なぜ?」

「あー…、なんというか、カッコイイから?」

 幽霊とはいえ黄瀬にあったなんて言ったら大変なことになりそうだ。だから口が裂けても理由は言えない。

「…勝手にしてください。ボクは今日は非番なので服を買いに行きますよ」

「え?あ、うん」

 黒子の機嫌が悪い気がするのはなぜだろう。












***












 昼過ぎ、紙袋の中には沢山の服。
 黒子は服を選ぶとポイポイカゴへ放り込むので名前は黙ってついて行っているだけだった。
 帰り際にピアッサーと消毒液を買い、買い物を全て済ませる。
 家で名前の秋服ファッションショーが開かれ黒子は携帯で写メを撮ってみたりした。



「よーく、消毒してください。あ、ガーゼはここですよ」

「うん」

 名前はウキウキしながら耳に消毒液を含んだガーゼを右の耳たぶに当てる。

「あ、動かないでくださいね」

「分かってるよ」

 黒子の指がピアッサーを押す。途端に名前から絶叫が飛び出す。
 バチンと音がして黒子はすぐに新しいガーゼを当てる。

「いったああああああぁぁぁぁぁああああ!?」

「近所迷惑ですよ。あ、あともう一個開けますから」

 黒子は名前の右の耳にまた消毒液を含んだガーゼを当てる。今度は先ほどの穴より少し上の位置だ。
 そして名前が有無を言わない内にまたバチンと音がする。そしてまた新しいガーゼを当て固定した。

「よしっ!」

「いったああああああ!!テツヤ!?よしじゃないよっ!?」

 黒子はピアッサーに付いた血を拭き笑った。

「え?」

「な、なんで方耳に二個も穴開けてるの!?私方耳に一個って言ったよ!?」

「そうでしたっけ?」

 黒子の手は新しいガーゼをまた摘み、消毒液に浸す。そして左の耳に当て消毒を始める。

「テツヤ?…穴開けるの?」

「はい。一個だけですが」

 名前にピアッサーを渡し、耳の付近の髪を掻き上げる。

「やっていいの?」

「その怪しい笑顔やめてください。不安になります」

 バチン

「ぷっ」

「いっ!?」

 涙目になった黒子はズボンの裾を握り締めた。
 名前は新しいガーゼを当て止めてやる。

「ははは!!痛いだろう!」

「む…。しかしこれで不意打ちもお互い様ですね」

「だね」

 黒子が止血を始めると、名前は最近買った雑誌をパラパラめくる。

「片付けますよ」

「はぁーい…?」

 返事が疑問形になり黒子はクエスチョンマークを浮かべながら名前を見た。

「名前さん?」

「ねぇテツヤってゲイ?」

「なっ!?」

 黒子は思わず噴き出す。

「方耳ピアスはゲイだって…。もしかして今日の用事…」

 青い顔でギリギリと黒子を見た名前の顔は怖かった。

「方耳でも右の耳にでしょう!?」

「左は違うの?」

「違います!!…たぶん」

 なんだか雲行きが怪しい。

「あ…々

「今度は何ですか?」

「テツヤ、セカンドピアスって数ヶ月経ってから開けるんだって」

「え!?」

 もはや名前の耳にはファーストピアスとセカンドピアスのピアスホールが未完成ながら出来ている。

「平気かなー?これ?」

 呑気に言うが大丈夫では無い気がする。

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