■ 19

「黄瀬涼太…、ホンモノ…。うそ、だって」

「信じられないのもムリないっス」

「やだ…トイレいけない」











Act19













 黄瀬涼太はまた墓石に座り名前に微笑む。まるで殺し合いをした仲とは思えないくらい優しい目をしている。初めてあったころは名前は契約者ではなかった。ただ無意識には能力を使っていたようだが。そのせいで記憶が飛んだりしたのだから。

 それはさておき、

「本当にホンモノ?」

「な、なんスか!胡散臭いモノを見るような目は!?」

「だって胡散臭いし…。最近ではテレビとかヘンナモノも発売されてホログラムとかだったら……しかも私が知ってる黄瀬涼太はガラがいかにも悪そうで、しかもコピー機?、で女の子で遊んでそう…。それから根性が腐ってた」

「俺の印象悪すぎっ!」

「のような気がする」

「気がするだけっスか!?」

 黄瀬涼太はあからさまにションボリする。さらに名前は悪口のような愚痴をツラツラと並べたてた。

「ないわ〜。悪キャラに限って落ち込むとか…。墓参りなんかに来なければ良かった」

「ひどっ!!」

 名前は立ち上がるとバックに手を突っ込み笑う。

「でも話せて嬉しいよ。黄瀬涼太。折井って話がある」

「話ぃ?なんスか」

 いかにも拗ねてますオーラが漂って来る。なんだか口もとんがっていてイケメンが台無しだ。

「緑間真太郎を知ってる?」

「へ?緑間っち?なんで?」

 やはり互いに知っているようだった。黄瀬涼太と緑間は仲間なのだろうか。

「昨日、緑間さんに会ったんだ。死ぬとこだった。それから黄瀬涼太を知っているかって聞かれたの」

「あー…、うん。緑間っちとは昔からの友達っス。どちらかと言えば苦手っスけどね」

「ふーん。ありがとう。いがいと黄瀬涼太っていい人だね」

「そりゃ、どーも。あとフルネームやめてくれないスか?涼太って呼んでほしいっス」

 名前は顔をしかめた。敵に情報を明かしてしまったとはいえ、生前二人は殺しあった殺戮の仲なのだ。
 そんな馴れ馴れしく呼んでいいものか、名前には小さな引っ掛かりがあった。

「………」

「別にもう殺し合う必要もないんスから」

 黄瀬は寂しそうに笑った。それはなんだか泣いてしまいそうな笑みで、名前は我に返る。彼はもう戦うこともできないではないか。

「そうだね。涼太さんもこんなとこで一人で寂しかったよね。今から私たちは友達!!」

 右手を差し出せば黄瀬も右手を差し出し握手をする。手は冷たかった。それでも黄瀬の笑顔が眩しいくらいに暖かな太陽のようだった。
 こんな表情もするのかと名前には摩訶不思議で堪らなかったが、彼の新たな一面をしれたことに対して喜んだ。

「できれば"さん"も付けないほうが…」

「う…分かった」

 名前と黄瀬の間が少し縮まった。幽霊でも触れるのかと呑気なことを考えていた。

「ねぇ、名前っちって呼んで良いスか?」

 黄瀬はまたもや墓石から飛び降りると名前の手を引いて奥にある寂れた公園に入る。

「別に良いけど…。なんか名前に"っち"ってよく付けるよね」

「尊敬してる人には付けるんス」

「それは、なんか嬉しいよ…」

「ねぇ…、」

 黄瀬はベンチに腰掛けると名前もつられて座る。

「どうしたの?」

「知りたい?」

 なんとも言えないような表情で言った。優越のような虚しさのような顔をしている。

「………なにを?」

「なにって、そりゃあ昔の黒子っちのことっス」

 名前はそれを聞いた途端に首を縦に振ってしまった。
 黄瀬は優しく笑って頷く。

「知ってることは少ないスけど、役に立つなら…」

 そう言って黄瀬は語りだす。












***












 今から2年前。あるスラム街に俺、黄瀬涼太はやってきた。苦しい生活の中、とうとう親に捨てられた。
 男だから泣かまいと眉間にシワを寄せていた俺に話し掛けたのは黒子っちだった。水色の髪とボロボロの服で互いが五十歩百歩な格好をしていた。

「大丈夫ですか?」

 その声には妙に落ち着いた。黒子っちはそうは言ったものの俺に有無を言わせないまま手を引いてスラム街のある一角に連れていった。
 小さな寄せ集めの布切れを継ぎ接ぎしたテントで俺と同じくらい、もしかしたら年上かもしれない男の子が黒子っちを含めて5人いた。

「ボクの仲間です。今日から君はキセキの仲間です」

 黒子っちはそう言っていた。

「キセキ?奇跡?」

「キセキです。あいにくボクはキセキでは無いですが彼等にシックスマンと呼ばれる存在です」

 黒子っちは誇り高そうに言った。
 そう彼等はスラム街を拠点とするこそ泥の一団で噂ではこそ泥どころか貴族の屋敷を一つを倒壊させたスラム街の有名な『キセキの世代』と名乗る盗賊だった。

「君には素質があります!」

「キセキってことはドロボーの素質じゃないスか!?」

「当たり前です。自分の可能性を信じてみませんか?」

 力強く言い放たれた黒子っちの言葉に俺はすがった。

「ボクらはこのスラム街を救うキセキになるんです。ボクにはそんな力はありませんが影から皆を支えるのが主な仕事です」

 それからたくさん盗みをした。キセキと呼ばれる俺を含めた5人とシックスマンと呼ばれたキセキとは別に動く黒子っちが何をしていたかは知らない。毎日、皆が寝た後に帰ってきてたのはよく覚えていた。
 そんな中キセキの中で起きている人が一人いる。黒子っちが帰るまで寒くても待っている奴がいた。

 それが赤司征十郎だった。いつも帰りが遅い黒子っちを誰よりも心配している。一番、俺達を指揮していたからか心配も人一倍だった。
 そして何も無かったかのように朝を迎える。そんな毎日だった。










***












「ってまぁこんな感じっスね」

 名前は黄瀬をじっと見て質問した。

「緑間さんもキセキ?」

「そうっス」

「(赤司征十郎…っていつも不法侵入してくる人だよね)」

「どうかしたっスか?」

 黄瀬が心配そうな顔をしながら覗き込む。

「私、赤司征十郎さん…知ってる」

「!?」

 途端に顔が強張る黄瀬に名前は驚く。

「どうしたの?」

「え…、あ、ま、まじ?」

 パクパクと口を動かす黄瀬はベンチから後退る。

「え?何!?」

「ちょっ、名前っちって契約者っスよね!?てか赤司っちと会ったこと……!?」

「は?えと、あるけど」

「こ、こここ殺されなかったんスか!?」

「いや現に私は涼太の目の前にいるし」

 なぜかやっかいなことになりそうな気がした。

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