■ 07

 神奈川県にある海常高校の前に立つ。
 大きな学校で人もいっぱいだ。ドキドキと緊張しながら入室許可証を貰い、玄関に設置された地図を携帯のカメラで写メる。
 それを元にバスケ部が使う体育館に向かった。

 地図によれば一旦外に出て、一階のピロティから二階に上がり体育館に入った方が良さそうだ。

 カーディガンの裾を伸ばして指の第二間接まで覆う。ローファーが砂と擦れてジャリジャリと音がなる。

 大きな扉を開けピロティの前に設置された階段を上がり、体育館の引き戸に手を掛け軽くスライドする。

 ………が、開かない。

 名前は足を踏ん張り強く引っ張った。

『うぐぐっ…、あかないぃ!』

 少し隙間が開いたが、それ以上は開かない。
 更に踏ん張るといきなり引き戸が開く。そのまま吹っ飛ぶ名前は悲鳴をあげて尻餅をついた。

『!!』


「あ、大丈夫か?って女!?」

 引き戸から短髪の男子が覗いている。しかしすぐに赤くなり、何の用だと俯き加減に言った。

『あ、えと…。誠凜の赤司名前です。黄瀬涼太さんに用事があって来たんですけど』

 そこまで言うと短髪の男子は険しい顔になり、サインはお断りだと意味不明なことを言って引っ込み引き戸を閉めた。

『え!?ちょっ!?私はサインなんかいらない!というかそんなもん貰ってどうするんですか!?私に逆らう気!?』

 こんなとこで双子を発揮しても意味は無いのだが、ついつい言ってしまう。


「そんなこと言っても騙されねーぞ!!俺は!!」

『い、意味不明だよ!!というか涼…、黄瀬さんのサインとかマジ需要無い!!お願いだから入れないと頭が高いぞ!!』

「お前日本語大丈夫か!?」

 名前は起き上がり、引き戸を叩く。

『いたって通常運転だ。貴様、私を中にいれないと親も殺すからな』

 今度はいれろ、いれろとギャリギャリと引き戸を引っ掻く。
 短髪の男子が引き戸の向こうで悲鳴をあげる。

「お願いだから帰ってくれエエェェ!!」

『いれろ、いれろォ…』

 ガンッと頭突きもしてみる。そして二度の頭突きをしようとしたところで引き戸が開く。勢いあまって、名前は頭を振り上げた。

 頭頂部に感じたのは柔らかい感覚。

「サインしたら帰っグッフゥ!?」

『あ』

「黄瀬ェ、テメェ何引き戸開けてやがる。俺がせっかくストーカーを追い払ってやってんのに」

 名前の視界に倒れる黄瀬が映った。


「いったあ…」

『…涼太』

 練習着の黄瀬は涙目で見上げた。

「赤司っち!?…によく似た女の子!?コワッ」

 黄瀬が物凄い形相で言うものだから、疎外に近いものを感じた。だからか、やっぱり違うんだと思う。

『…怖いか?』

 ポツリと出た言葉が震えた。

「お前ら知り合い…ってわけでもなさそうだな」

 短髪の男子が怪訝そうな顔で黄瀬と名前を交互に見る。
 名前の眉間にシワがより、黄瀬が立ち上がった。

「すみません。笠松センパイ、5分で戻るっス」

 名前の手を掴み、体育館の隅に引っ張った。

「あ、おいッ!?」

『なっ!?離して!!馬鹿野郎!』

 名前が嫌がるのも構わずに黄瀬は体育館の隅に立たせる。

「どっかで会ったことあったスか?」

 正直言うと怖かった。名前が弱々しく首を振る。

『……その、返したいものが…』

「返したい、もの?」

 名前はポケットからハンカチを取りだし広げる。
 その中にあったのは黄瀬から貰ったお守りのピアスだ。

『……………私、征十郎の双子の妹の名前…。聞いたこと無いかもしれないけど』

 名前は泣きそうになりながら俯き加減に言った。
 すると黄瀬の顔は強張る。

「ちょ…、赤司っちの双子の妹スか!?俺殺されるっス!?マジ許してほしいんスけどッ!?」

『は?』

 涙の膜が張った紅蓮の瞳が黄瀬を不思議そうに見る。

「つかそのピアスどこで!?」

『………良いから受け取ってよ』

 何だか早く帰りたくて、黄瀬にハンカチごとピアスを押し付けた。

「いや、まって、マジ許して!!」

『うるさい!!涼太の役立たず!!私がバカだった!なんで電車乗ってわざわざここまで来たのか分かんなくなってきた!!』

 黄瀬があからさまにショックを受けた顔で見下ろして来る。

「だからごめんなさいっス!!というか話を聞かせてくれないと俺もわかんないっス!!」

『黙れ!涼太なんかドブにはまって溺死しちゃえ!!わあああぁぁぁあああん!!』
「ヒドッ!!」

 ドスッと腹に一発拳を入れて泣きながら体育館を走り出た。

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