■ 06

 黒子に会うことが最近億劫になっている。
 知らない黒子ばかりで、気が追いつかないのだ。何より、黒子の中の名前だって知らない名前であるはずなのに優しいから、ただ同情されているだけではないかと不安になる。

 疑いたくないのに、疑ってしまう。
 あの日、鎖を断ち切ったのは黒子で、文字を教えてくれたのも黒子で、名前のことを大切に、本当の妹のように接してくれた。
 同じなのに違う。

 誰かに相談したいのに周りは知らない人ばかり。
 赤司はいない。今の名前には黄瀬も青峰も緑間もいない。キセキの中で一番助けてくれた紫原すら頼れない。

 いざというとき黒子を守れない。能力が無いから、自在に炎操れない。
 赤司だって遠く離れていても生きているというのに、意思疎通の能力も使えない。
 記憶が飛んでしまうのは嫌だが、今なら仕方がないと思える。

 耳元を弄る度にギシギシと悲鳴をあげる心。
 体温で少し温かいピアスは黄瀬から貰ったものだ。


『……りょうた』

 体育館の真ん中で黒子が火神にボールを当てられたらしく倒れている。
 しかしすぐに起き上がった黒子はイキイキとしていろんな意味で火神を驚かしていた。

 呟いた言葉に続いて浮かんだ言葉。


 バスケ部。海常高校。神奈川。キセキの世代。黄瀬涼太。


 あの怖いくらいに整った顔立ちがいつも向けていた笑顔。この世界の黄瀬は名前を受け入れてくれるだろうか。

 名前の中に一筋の希望が見えた気がした。
 すぐさま立ち上がると、ポケットからメモを出し、ペンを走らせた。
 そして体育館の四隅に置きっぱなしの黒子のスポーツバックの上に置いて、チェック柄のリュックを背負いその場を離れる。

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