■ 05

 ピアスだけがあちらからの持ち物。それは宝物。
 体育館の隅で体育座りをしながら片手でピアスを弄っていた。名前の視線は黒子に向いている。

 今の気分は泣きたいくらい、悔しい。
 膝を更に寄せ、訳が分からない恐怖が襲ってくる。

 この世界の黒子は知らない黒子で、どうしても他人行儀になってしまう。

 ピアスを弄る手を下ろし、うなだれた。





Act05







 体育館の隅から視線を感じる。深紅の髪から覗く目は真っ直ぐ黒子を見ていた。
 しかし、あまり元気がなく抱えている膝を寄せて縮こまっているように見える。
 そのことが堪らなく不安である。火神が言う通り名前には黒子しか頼る伝がない。京都にいる赤司には到底頼れないし、家ではどうなのかすら分からない。

 ただ泣きそうで、悔しそうに見つめている名前はいつかは壊れてしまいそうだった。
最近はよく耳を弄っている名前。目を凝らせばチラリとピアスが見えた。
 心なしか一つは黄瀬のピアスにそっくりで、もう一つは懐かしく感じる。自分の耳にも同じピアスが着いていたような気がするのだ。

 しかし黒子にはピアスホールはない。
 大事そうにピアスを弄る名前を見ると不思議な感覚になる。思わず自分の耳を触ってしまいたくなる。

 学校の規則でピアスなんか付けれない。


「(…じゃあどうすれば)」

 立ち止まり顎に手を当て考えた。
 しばらく考え込んでピンッとくる。

「イヤーカフなら大じょっバチンッ

「黒子おおおっ!?」

 顔面にボールが飛び、真後ろに倒れた。火神が駆け付ける。一度倒れ込み、再びバッと 起き上がる黒子に火神が悲鳴を上げる。

「火神くん!!」

「な、何だよ…」

「考え事してました!!」

「見たら分かるわっ!ボケッ」

 ゴチとげんこつを喰らい黒子は悶えた。

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