■ 04

 黒子が座り込んだまま、名前の遠ざかっていく背中を見ていた。
 ただ儚い笑顔だけを残して、耳元を弄っていた手が気になるくらいに印象に残っている。
 いつかは本当に消えてしまいそうだった。帝光中学校にいたころの栄光も光りも色も全て消え去ったように、視界が色褪せていくような感覚で麻痺した感情が、少しずつ名前を消していく。





Act04






 名前の語る世界線説も軍国主義の国も黒子からすると、ただの空想で妄想と変わりは無い。
 しかし、そこにいつまでも縛られつづける名前が耳元を弄る度に、悔しさだけが残るのだ。

「(…ボクはどうしたら良いのでしょうか)」

 まるで身内を見ているような名前の眼差しは兄を慕う姿のようである。
 黒子と赤司をイコールで結んだ感じが一番イメージ的にピッタリだ。
 確かに名前は言っていた。あちらでは自分は黒子の義理の妹だった、と。

 いつまでも呆ける黒子の肩を火神がドンッと押す。

「ボサッとすんな」

 黒子がしっかりしないと名前は頼る相手がいなくなるだろ、と火神が囁いた。
 文句も言わずに支えてくれる火神に感謝せねばと黒子は分かってます、と返事をして立ち上がった。






***






 一度気にしてしまえば頭から離れない。人間ならよくある話だ。
 名前も例外ではない。平和ボケをしている今、何が起こるか分からない恐怖が思考を蝕む。
 その時は自分が守れば良いと思ったのだが、能力が使えない。こちらとあちらでは世界観も違えば定義も違う。
 ゲームが終わったから使えないだけなのかは不明だが、とにかく能力は使えなかった。じゃあ、どうやって守るの?と心で不安がる自分が問い掛けてくると、名前は答えることが出来なかった。
 バスケ部に行く前に寄ったトイレに設置された洗面所の鏡に写るピアスを眺める。



"お守りっス!!"



『………』

 何が起こるかなんて分からない。予想が出来ないから能力に縋るのに、使えないのなら自分は不要ではないかとすら思っている。
 実際、住み慣れないこの世界は安全なのかもしれないが、殺し合う運命を背負い走り抜けてきた名前には戦うという本能が抜け切らない。

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