■ 03

 黒子が二年生のフロアを走ると反対側から火神が走ってきた。
 互いに勢いがつきすぎて黒子は珍しく声を張り上げる。

「かかか火神くん!!止まってくださあああぁぁああい!!」

 火神も止まれずに無理だと叫ぶ。
 黒子の声にならない声が空中を裂き、火神は全校に響き渡るくらいの絶叫をあげた。

 ドカッっと正面衝突した二人が倒れる。
 ゴロゴロと火神が廊下を数メートル転がり、ゆっくり黒子に手を伸ばす。


「お…、い。くろ、こ…」

 黒子の反応は無く、倒れたまま動かない。

「きい…てんのか……!つか、……いき、てるか…?」

「……………」

 丁度鳩尾に黒子の腕が入り、心臓の位置に頭突きを喰らった火神は苦しさに身もだえた。





Act03





 近くの教室の引き戸が開き、パタパタと二人分の足音がする。


「ちょっ!?あんたたち何寝てんのよ!!」

『……タイガー、テツヤ、転んだの?』

 リコと名前の声が降ってきて、黒子はピクリと反応した。

「あ、黒子!!生きてるか!?」

 火神が痛む場所を撫でながら黒子を起こす。

「ちょっと、何があったのよ」

 リコが火神に近づき、耳をギリギリと引っ張った。名前は痛そうと呟き、思わず自分の耳を触る。
 すると無機質なピアスに指が当たった。



"これでお揃いです"



 黒子の声が脳内に反響し、とてつもない悲しさが襲う。
 黒子の耳を見てもお揃いのピアスは無い。ピアスホールすら無い。

 やっとかっと起き上がる黒子が呻きながら名前を見て微笑んだ。名前も合わせて笑うが、どうも現実に脳がついていかない。
 途方も無い気持ちがぐるぐる回り、ついに目を逸らした。リコはそんな名前を見て、ため息をつく。
 微妙な隙間のある二人をもどかしく感じたのと同時に名前が黒子自身に戸惑っているようにも見えた。

『…私、先にバスケ部に行ってお手伝いしてくるね』

 名前は自分のイメージとは違う黒子に違和感を覚えている。平和な国で育った黒子と殺戮を繰り返しながら育った、あちら側の黒子には大きな相違点があるのだ。

 その場を去るとき、黒子と火神は自分を心配して走り回っていたのだと何となく察していた。
 だから内心で謝罪しつつ廊下を歩いて行った。

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