■ 02

 何年も世間離れしていたのか名前はテレビを見て、画面が昔より鮮やかになっているだの、タッチパネル式の携帯を見ると衝撃を受け固まったりする。
 そんな名前を連れて歩くと、あれは何、これは何と黒子を質問攻めにする。バスケすら知らないような子が、一人でフラフラ歩き回ると誠凜高校の中で迷子になるのだから目を離すことも、ほぼ不可能。
 火神でさえも大丈夫なのかと心配してしまうくらいだ。

 一応、赤司公認の彼氏である黒子が毎日つきっきりで駆け回っていた。
 それは京都にいる赤司に直々に脅さ…、頼まれたからである。言われなくとも自分ならそうすると黒子は思っているのだが。




Act02






「名前さん、部活行きますよ?」

 パッと隣の席を見ると名前はもういない。
 その様子を見ていた火神が真っ青になる。火神はいつだって名前の面倒をみる黒子を助けている。だからこその反応だった。

「おい、黒子…」

「………消えましたね」

 パシッと黒子が自分の額を叩き、うなだれる。

「…すぐ消えるとこは黒子と大差ねぇから安心しろ」

「それはフォローですか。というかボクは消えても再び現れるので、そこまで厄介ではないでしょう」

「いや、十分厄介だわ…」

 二人は顔を見合わせ、走って教室を出た。





***





『それでリコちゃん、話って何?』

 放課後、リコに呼び出された名前は黒子と火神が校内を駆けずり回っているのも知らずに呑気に二年生の教室に来ていた。

「黒子くんとはどこまで行った?」

『え?…私とテツヤはどこかに行ったの?』

 キョトンと聞き返す名前にリコはため息をつく。

「……質問を変えましょう。名前ちゃんは黒子くんと手を繋いだ?」

『うん。毎日繋いでる』

 するとリコがやるじゃない!と肘で名前を突く。

「じゃあキスはした?」

『私、まだ16歳だよ?』

「…じゃあハグは?」

『ハグって何?』

「抱っこよ!抱っこ!!」

『あー、無いかも。何で?私重いからテツヤが高い高いなんてするわけないじゃん?』

 どこまでもピントがズレている名前の返答にリコが黒子に同情した。
 リコの心の中は世間さまの暗黙の了解すら知らない名前を一般的な女の子までに成長させたいのだが、天然ボケは避けようもない。
 それは、入院している天然ボケ男こと木吉鉄平で学習済みだ。


「…だめだわ、こりゃ」

『どうしたの?リコちゃん』

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