■ 13

「ここは・・・・」

 気がつけば黒子は、懐かしい帝光中学のユニフォームを来ていた。
 一面に広がる花畑をバッシュで踏む。

『テツヤ…』

 名前が呼ばれた。間違いない。名前の声だ。
 なぜだか黒子を一瞥したとたんに、悲しそうな表情をする。
 すぐに名前は消え去った。
 まるでフェードアウトするように。

「待ってください!名前ッ!!」

 手を延ばした。しかし、突風が黒子の足を救い上げる。黒子の体は簡単に紙切れの如く舞い上がった。



Act13




「待っ」

 待って、と言いかけて黒子は目を見開いた。
 ベットの上、いつもの部屋。海の見える窓。
 のそりと起き上がる。なんだか悲しい夢を見ていた気がする。
 時計が朝の6時を指した。
 いつもと変わらない日常が訪れる。



***



 お揃いのピアスをキラキラと光らせて、朝食を作る。まだ、名前は起きて来ていない。
 寝癖を揺らしながら、目玉焼きを焼く。
 トースターがチンッと軽い音を響かせた。
 軍服のズボンにワイシャツ、という出勤前の格好である。
 半熟の目玉焼きを焼きたてのトーストにのせ、皿に盛る。それらを机に置いて、家族の名前を読んだ。

「名前さん、朝ごはんが出来ましたよ」

 数十秒で、ボサボサの白髪を揺らしながら、寝巻のままの名前が2階から駆け降りてきた。

『寝坊したッ!』

「言わなくてもわかりますよ」

 ヤカンがピィーッと高い音をたてる。キッチンの焜炉の火を消すと、インスタントの紅茶を淹れる。

 日常がやってきた。



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