■ 12
騒ぎを聞き付けた、名前の母親が部屋に入ってきた。
癇癪を起こす娘と、娘に襲われる黒子を見て、咄嗟に二人を引き離した。
「名前っ!何をしているの!!」
母親が無理矢理腕を引っ張る。それでも名前は黒子につかみ掛かりながら、謝り続けた。
『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!』
許して!と叫ぶ名前に母親が更に怒鳴る。黒子は必死にもがいていた。
「名前・・・・!」
名を呼んでも、声は届かない。
『ごめんなさい!もっといい方法があったはずなのに!!私は!!』
「何を言っているの!」
『私はッ』
"二度もテツヤを殺した"
その言葉が耳に届いた瞬間、黒子は目を見開き、もがくのをやめた。
Act12
「(名前がボクを、殺した・・・・?)」
いつ?、どこで?
母親は名前を押さえ込むのに必死で全く気づいていない。
名前から聞いた話しでは、黒子を殺したという話しは出てこなかった。
「(名前は、すべてを話していない・・・・)」
黒子は急に怖くなった。もがくのをやめた。名前を見るのをやめた。
すべての動作で名前を否定する。
黒子は恐怖で目をつむった。
∝∝∝
気が付いたら真っ暗な空間にいた。喧噪や名前の謝罪も聞こえない。
浮遊する意識と身体に、頭がくらくらとした。
「(ここは、)」
どこだろう。
上も下も無い空間で黒子はバランスを取った。
周りを見渡すが何も無い。
「誰か、いないんですか?」
恐る恐る声を出すが、人がいるようには見えない。
あるのは距離感もない暗闇と浮遊。
確かに名前の部屋にいたはずなのに。
「・・・・・・・」
手を空中でさ迷わせる。覚束ない足取りで歩みだした。
歩いている感覚はある。
「誰か・・・・・」
黒子が目を凝らすように目を細めた。
すると狙ったかのように突風が包み込む。
あまりの強さに顔を庇うようにして突風に吹き飛ばされないように、踏ん張った。
「わっ・・・・」
ぎゅっと目をつむって、暫し身を低くして堪える。
そして暗闇がザッと晴れた。瞼越しに眩しい光りが当たり、血液の赤が視界いっぱいに広がる。
目を開けるとそこには壮大な花畑があった。
「!」
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