■ 10
黒子が名前を見つめたまま動かなくなった。
『勘違いって・・・・、私は征十郎さんの伝言を伝えただけだよ?』
黒子の目が大きく見開かれ、名前の肩を掴んだ。
名前はなぜ黒子が狼狽えているのか分からずにクエスチョンマークを頭上に浮かべる。
「何をどう聞いたら赤司くんがボクに抱いてほしいだなんて言うんですか!?」
赤司に限ってそれは無いと主張する黒子はひどく混乱している。名前は取り敢えず落ち着かせようと深呼吸をした。
『待って!テツヤ、落ち着いて!!』
「落ち着いていられませんよ!!」
突然、名前が黒子の胸倉を掴んで前後に揺すぶる。
『深呼吸!落ち着いて深呼吸しよう!!』
もちろん黒子にはそんな余裕はない。
ガクガクと揺すぶられながら落ち着いて深呼吸などできるものか。
『私はテツヤと征十郎さんができてても良いよ!"できちゃった婚"ってやつだよね?最終的には』
はぁはぁと互いに息を切らせて、動きを止めた。
黒子は苦しかったのか顔が青白い。
「な、なにを・・・・・言ってるんですか・・・・・」
『だから・・・・テツヤと征十郎さんがR18なことして、お腹に身篭って・・・・・』
後半から黒子の腹をチラチラと見ている名前の頭頂部チョップをかました。
「あるわけないでしょう!!」
反動で下を向く名前が頭を押さえて、痛みに涙を滲ませた。
『でもでもでも!!テツヤと征十郎さんなら禁断の恋をしていてもおかしくないというか!?遠距離恋愛!うん。二人とも綺麗だから!!か、官能的?というか』
そんな二人が大好きッ!と頭がごっちゃになった名前が言う。
「・・・内容がBLになってます。しかもボクが受けのポジションに・・・・屈辱です」
『あの・・・、テツヤ、さん?』
Act10
黒子がぷしゅうと気が抜けたように正面から名前に寄り掛かる。
そして溜め息が名前の耳元で聞こえた。
「・・・・・今、気づいたんですけど、ピアスが一個減ってません?」
名前は黒子の背中に腕をまわすと、問い掛けに頷いた。
『うん。本当の持ち主に返してきたの』
「・・・・持ち主、ですか」
『うん』
名前の耳に残っているピアスはあちらの黒子とのペアのピアスだった。
それを知るはずの無い黒子が片手で、髪の毛を巻き込みながら、触れる。
「こちらのピアスは?」
名前の表情が曇る。抱き合っているため黒子には名前の表情は見れないが、確かに体が強張ったのが分かった。
『そっちは・・・、テツヤとね、お揃いだったピアス』
過去形の話だ。そして名前の"あちら側"の黒子テツヤとお揃いだという。
今だ半信半疑ではある。もし名前の夢物語だとしても、あまりに鮮明で世界線説とやらが成り立つのであれば契約者の話を除いて成り立つ部分はある。
「一つだけ、お願いがあります」
そのピアスに口づけをした。名前を少し引き離すと、真っ直ぐに目を見る。
名前の目を逸らさないところは、きっと兄と同じ血が流れているからだと思っている。
「ボクの前だけで良い。あちらのボクのことは忘れてください」
名前の目が見開き、黒子の制服を強く握った。
『・・・・ごめん』
名前はその一言の重みと黒子の気持ちを察したのか、今度は名前から抱き着いてきた。
そんな名前の頭を撫でながら黒子は、無表情になる。
「(そんな顔をさせたかったわけじゃないのに)」
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