■ 28
早足の黒子に合わせて名前が小走りになりながら腕を引かれる。
『どこ、行くっの!?』
息が切れてきて詰まり気味に問う。
「…少し、用事が」
『用事くらい、…一人で行けよっ!って、あっ!?』
足がもつれて私が前のめりになる。
黒子が寸でのところで私を受け止めた。
「…すみません」
『もう!テツヤのバカ!』
何がなんだか分からずに黒子とくっつきながら、また歩きだす。
夕日が暖かく私たちを包む。
「…慰めたくて、…マジバに行こうかと」
『マジバって、チョイスが微妙なんだけど』
結局、マジバに向かって歩いている二人。
道中に名前が思い出したように言った。
『そういえばさ、』
「なんですか?」
『前に貸した上着あったじゃん?ほら、水族館に行ったときに貸したやつ』
黒子はあぁと言って返し損ねてました、と苦笑いした。正しくはタイミングを失ったなのだが。
「それがどうしたんですか?」
『あれね、私のお兄ちゃんの』
唐突に言った名前は黒子に更にくっつく。
「名前さんは確か一人っ子では…?」
『ううん。5歳離れたお兄ちゃんがいたの』
過去形で話が進むことに黒子が薄く察した。
「…そうでしたか。初めて知りました」
『黒子にだけ話したんだもん』
他の人には話したことはあまりないと笑う。
「…………」
何と言って良いか黒子が口ごもると名前は手を絡める。
『お兄ちゃんはドジだから、車に轢かれかけた子供を助けてぽっくり逝っちゃったんだよね』
面白おかしく語る名前の目に憂いが帯びたのが分かった。
「…えと、………」
『あの上着、貰ってくれない?ずっと持っていたけど私には大きいしさ…』
黒子が困った顔で名前を見つめた。
「でも、お兄さんの遺品じゃ『いいの!!…着ないならテツヤにあげたほうが良いと思うし』
にっこり笑う名前の顔。昔の自分には絶対向けなかった顔だと思った。
「なら有り難くいただきます」
『うん』
マジバの自動ドアの前で黒子は笑った。
「今日はボクの奢りです」
『破産させてやる』
「え…、それはちょっと」
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