■ 25


目の前が暗くなって私は座り込んだ。
泣いてはいけないはずなのに涙が溢れる。

黒子の靴を見ながら、唇を噛み締めた。
黒子に言われて気がついた。



私は黒子が好きなのだと。今は黒子より、キセキの世代よりも自分が憎くて堪らない。

「名前さん…」

涙が渇いた黒子がしゃがむ、そして私を抱きしめた。

『さわ、んな』

押し返すが、黒子は比例するようにその分だけ強く抱きしめる。
抱擁という表現が一番合う気がした。
愛情が感じ、感情があり、黒子という存在を間近で感る。


「ボク、最初はそう思ってたんです。雑巾だとか、汚らしいとか…。でも泣いている貴女を見て何故か不思議な気分になった。それはキセキの世代も同じだったようです」


『…………』

生暖かい涙がまだまだ伝う。

「もう一度言わせてください。貴女が好きなんです」

『うそつき…』

「嘘つきは貴女でしょう?ボクに分かって当の本人は自分の感情から逃げて何度もボクをフッている」


『……うるさい!はなせっ』

信じたいのに信じられない。悔しくて堪らない。
同時に自分への自己嫌悪。

「……」



『私はっ、アンタが信じられないの!今だって…!!』


そうじゃないか。
信じたいのに信じられずに気持ちに嘘をついて黒子を拒絶し、自分が仕向けた言葉に傷つき、泣いている。

「今だって…、何ですか?素直になれないことですか?ボクに嫌いと言いたいのに言えないことですか?」

まるで赤司のように見透かしたような声音に私は驚いた。



『………っ、』


嗚咽混じりに、黙り込む私から体を離した黒子がじっと見つめてくる。



「信じてください。…仲直りさせてください」





私は黒子が好きなのだと気がついた。離れてしまえば後悔するのは目に見えている。



これで良いのだろうか?

この物語はハッピーエンドだと信じて良いのだろうか?

芽生えたこの感情はこの結末を望んでいるのだろうか?

包まれた心地よさに身を任せても良いのだろうか?









『……信じていいの…?』



やっと出た言葉はそれだけだった。


「はい」

『もう、…いじめない?』

「はい。………たぶん」


『………たぶんはダメ』



いつの間にか渇いた涙がパリパリになって頬に張り付いていた。それを黒子が両手で包み顔を寄せた。目をつむる。

唇が触れそうなとき、私たち以外の影が覆いかぶさった。

そんなこと知らずに私は目を閉じたまま静止していた。


「………っ!!」


黒子が影の主を見て息を呑んだ。


『……テツヤ?』


いつまで待ってもキスをされないもどかしさに目を開けた。
同時に、聞き覚えのある声が聞こえた。




「おまえらぁぁぁああああっ!!!!!!黒子くんが来ないから見に来たら教室でいちゃこらしやがってええぇっ!!!!!!」



「か、カントク!!ちょっ!?」


黒子がリコに胸倉を捕まれて、顔が真っ青になる。


『テ、テツヤ!!リコ先輩落ち着いて……!!これには浅い訳がっ!』

「今までのことが浅いと言うんですか!?というかこの会話は昨日もしたような気がしますが!?」

リコに二人で体育館へ連行された。

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