■ 21
「カントク怖いですね」
『リコ先輩?』
「それ以外に誰がいるんですか…」
ドライヤーで寝癖を器用に直していく黒子に名前は感心した。
『黒子、寝癖さ…』
黒子の手捌きは達人ものだ。
「あぁ、日課ですから」
『日課!?ソレ!?』
「寝癖は一生ついてまわりますからね」
朝練の後に寝癖をいつも直しているらしい。
『いや、一生ついてまわるのは分かるけど、それさぁ…』
人間の域を超えてるよ、と名前はサラリと黒子の髪に触れた。
……髪細い。サラサラ。キラキラの水色…。柔らかい。天使の輪キューティクル……。
「名前さん?どうかしました?」
『………テツヤ、シャンプーとトリートメント何使ってる?』
「え?シャンプー?」
***
名前は大人しい黒子に違和感を覚えていた。確かに下手にまわしたのは紛れも無い名前自身だが、黒子が黒子じゃないみたいで怖い。
「どこ行きたいですか?」
『…水族館以外で』
ですよね、というような顔で黒子は携帯を取り出す。親指が器用に動きながら画面を見つめる。
「なら、……プラネタリウムとかどうですか?」
『プラネタリウム?珍しい場所だね』
プラネタリウムなんて小学生以来だ。
確か天体の授業で見学に行った。
「…綺麗だから好きなんです。不思議な気分になるんですよ」
『たまに見ると良いかもね』
名前と黒子は市電に乗り隣町へ向かった。ゆらゆらと揺られながら悪戯をしない黒子が何故かもどかしくてたまらない。
外を見ながら流れる風景に虚しさを覚えて黒子の肩に頭を乗せた。
「名前さん?」
『黙っててよ…』
トーンを低くして名前は黒子を睨んだ。黒子は何も言わずに肩を抱き寄せ、トントンと軽く叩く。
「何かしましたっけ?」
身に覚えが無いと黒子は言う。それもそのはず、名前が勝手に機嫌を悪くしているからだ。
『別に。関係ないから』
「そうですか」
ぎゅっと抱きしめられた。その行動に私はドキドキしたと同時に勇気や自信が削がれる。
『黒子…、』
「なんですか?」
『……何でもない』
「そうですか」
キィーッと音と共に慣性の法則が働き、名前は黒子の腕の中に更に飛び込む形になる。
『(へんだよ…)』
「着きました。降りましょう」
離れた体がとても寒くて、少し暖かい日だというのに黒子の腕に抱き着いて市電を降りた。
『(おかしいよ…)』
「こっちです」
『(くろこが…、テツヤがへんだよ)』
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