■ 19
「はい。お友達が泊まりに来てるんです。………女の子です」
電話の向こうでは父と母がキャッキャッとはしゃいでいる。息子に春が来たと喜んでいるらしい。
「火には気をつけます。……………はい。大丈夫です。襲いませんよ」
電話を一方的に切れば、風呂上がりの名前の姿。
『どうしたの?』
「名前さんが泊まっていることをボクの両親に言ったら祖母と祖父の家に泊まるから、ゆっくりしてろと言われました」
『………あっそ』
少し生意気さが蘇生したと思うのは黒子だけだろうか。
「あ、下着は…」
すっかり忘れていた。
『大丈夫。生理用の常備してるから。ブラは無いからテツヤの引き出しからランニングを拝借した。んで、上から更に拝借したTシャツを着てみた』
「Tシャツとズボンを貸した記憶はありますが、ランニングは初耳です」
名前が勝手に冷蔵庫を開けて牛乳を出した。
『うん。初めて言ったし』
「……………」
『ねぇ、アレってココア?』
カップに牛乳を注いで聞いてきた。アレとはチョコミルクのことだろうか。
「チョコを混ぜたんですよ…」
戸棚を開けて小さな一口サイズのチョコを差し出した。
『食べていい?』
「太りますよ。もう23時過ぎなんですから」
ホットミルクに止めるべきだと言えば名前は青ざめて自らの腹を見た。Tシャツがダボダボすぎてウエストなんか見えやしないけど腹を抓ったり、撫でてみたりしている。
『私ってそんな太ってる!?』
「いや、心配するほどでは無いかと…」
皮肉すら出てこなくて、下手に回ったみたいで少々腑に落ちないが、名前は楽しそうだ。名前はこんな日常会話を望んでいたのだろうか?
『いや…でも、一回り…』
「一回りも太ったらポッチャリの部類に入る気がするので、有り得ないと思います」
***
『狭いんだけどっ』
「仕方ないじゃないですか!!」
壁際を占領する名前にボクは狭いと怒られる。
『私がデブなんじゃなくてテツヤがデブなんだっ』
「なんか理不尽です」
『あ、足触ったでしょ!?』
「足が当たっただけでしょう!?」
胸をボカッと殴られる。可愛いのは見た目だけか。やっぱり中身は可愛いげがない。
『触ったらコロス…』
だから、理不尽なんですけど…。
***
時計の音が耳障りで眠れない。いつもなら普通に寝ているのに。
やはりベットは止めよう、と黒子が起き上がりかけた時、喉元に踵が落ちてきた。
「げふっ」
あまり出さないような声を出して悶える黒子は踵を退かす。
「(いった…、っていうか何で名前さんがベットで反転してるんですか!?)」
本来頭があるはずの枕の上には足が乗っかっている。
『しねぇっ』
「は!?」
ゴッとすねに衝撃が走り、布団ごとグルンと寝返りを打つ。黒子は痛みに唇を噛み締め、寒さに鳥肌が立つ。布団を全て取られてしまった。
「(寝相悪すぎる…!!)」
仕方なくベットを下りる。一層のこと床で寝てしまおうかと腰を下ろした。
「はぁ…。寝相悪い女子なんてモテないですよ。名前さん」
ホレた自分は例外として。ボヤボヤとそんなことを思いながら、悪戯でもしてやろうかと部屋を見渡す。
あまり下手なことをすると振られかねないのでたいしたことは出来ないが、小さなテーブルの上に小さなヘアゴムを見つけたので手を伸ばした。
そんなとき首に手が回ったのがわかり、嫌な予感がした。
『おりゃあ』
と掛け声がして一気に首が絞まる。
「うっ…!?」
黒子はあまりの苦しさに意識をとばした。
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