「宮坂くんって木野先輩が好きなの?」
そんなことを聞いてきたのは同じクラスの音無春奈。たしか、サッカー部と新聞部のかけもちをしており、明るい元気な少女だと記憶している。
「何でそんなことを、」
「私の情報を甘く見てもらったら困るわ。」
ふふっと得意気な顔をする。
「なら、何で確かめたのさ。」
情報が確実なら本人に聞く必要はない。からかいにでも来たのだろうか。
「一応噂だったからね。まあ、それよりも。えっと、あなたの恋を手伝いにきました。」
私に任せてください、とでも言うようにぽんぽんと胸を叩く。
「はあ、」
自分は今なんとも言えない顔をしているのだろう。確かに木野先輩を好きなのは間違えないが、どうして音無が手伝うのだろう。
「絶対にそんはさせないから。」
にこりと笑いながら強気にものを言う音無に不安が絶えなかった。

しかし、木野先輩と同じ部活であるのと新聞部というのはこちらに情報を与えてくれるには十分だった。部活で木野先輩がかっこよかったとか音無と二人で遊びにいった先輩がかわいかったとか。見せてもらったプリクラのはにかみながら微笑む木野先輩とてもかわいかった。
「写真よりも実際のほうが可愛いんだろうな。」
「当たり前じゃない。」楽しそうに語る音無をよそにプリクラを眺めながらため息をついた。

「宮坂くん、」
ある日の放課後、教室で声をかけられた。
「あれ、この声。」
振り向くと憧れの木野先輩が立っていた。
「木野先輩、どうしたんですか?」
浮き上がる気持ちを押さえつけ、平常心を保つ。
「春奈ちゃん、いるかしら?」
首を傾げている姿はとても可愛らしい。どきりと心臓が高鳴る。
「えっと、職員室に質問にいってます。」
いつも通りに話せたことに少しほっとする。
「なら、少し待たせてもらおうかしら。」
にこりと笑って隣に座る。心の中でこっそりと音無に感謝する。また今度お菓子でもあげよう、なんて考えながら隣に座った先輩に目をやる。音無に渡すのであろうファイルを眺めている姿も綺麗だ。
「あ、そうだ。宮坂くん。」
ふと、思い出したようにこちらをに声をかける。
「はい、何でしょう?」
まさか先輩が自分に用事があるなんて。しかしこの浮わついた気持ちは先輩の一言で消えてしまった。
「宮坂くん、春奈ちゃんのこと好きなの?」
「へ?」
数秒、思考回路が停止してしまったようだった。似たような言葉、少し前に聞いた気がする。ぐるぐると先輩の言葉が頭に回る。先輩は僕が音無を好きだと思っていた?どうして。僕が好きなのは先輩なのに。
「あの、それはどうして?」
何とか言葉を絞り出す。
「噂、かな?最近春奈ちゃんと宮坂くんが仲良いって聞いて。」
そういえば最近音無といることが多かった気がする。でも話してることは先輩のことばかりだったはず。なんでこんなことに。
「大丈夫?顔色よくないわ。ごめんなさいね、変なこと聞いて。」
先輩が心配そうに声をかけてくれた。何で先輩にそんな顔をさせてるんだろう。もう、正直に言ってしまったほうが良いかもしれない。うん、そうだ。心配してもらうよりは。
「あの、先輩。」
呼びかけて両手をとる。
「え、どうしたの?」
いきなりのことに困惑してるようだった。自分の気持ちを落ち着かせる。
「僕が好きなのは木野先輩です。音無じゃありません。」
言ってしまった。先輩の表情を見ないように下を向く。心は言えたことの達成感とそのあとの返事への悲しみがぐるぐると渦を巻いているようだ。こんな素敵な先輩だからきっと僕なんかより、良い人はきっといっぱいいるのだろう。答えは予想できる。早く答えてほしい。望みのないのはわかっている。
「あの、先輩。」
答えを聞くために勇気をだして、顔をあげて先輩を見る。
「え、せんぱ、い。」
ぱちりと目があった先輩は顔を真っ赤にしてわなわなと震えていた。
「ごめ、ん。まさか、私を好きだったなんて。あの。びっくりして。」
先輩のそんな様子に心臓がどきりと大きい音をたてる。まさかそんな可愛い反応をしてくれるなんて。これじゃやっぱり諦められわけないよな。
「あの、せんぱ、」
声は先輩からのキスで封じられた。
「わ、私も宮坂くんのこと好きだよ。」
恥ずかしそうに話す先輩。気がつけば抱き締めていた。
「本当ですか、嘘じゃないですか?」
すがるような声だった。
「嘘じゃないよ。宮坂くんが好き。」
先輩はそっと抱き返してくれた。
「僕も。大好きです、大好きです、先輩。」
そう言って今度はこちらからキスをした。

噂が噂を呼んでしまって

by 沈黙夜宮

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「君じゃなきゃ恋してない」に提出させていただきました。少しでも宮秋が増えますように。
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