「夏休みなんてだいっきらい」
誰に言ったかは分からないが、そう吐き捨てるように言ったのは片想いをしている俺の隣の席のあいつ。
もう生徒は帰って俺達二人しかいない教室にはあいつの声がよく響いたら。
今日は終業式で明日からは夏休みが始まる。
ほとんど生徒が夏休みを心待ちにしており、そして今日を迎えた。
けどこいつはそのほとんどの生徒には入らないらしい。
「いきなりどうしたんだよ?」
「あたしね、夏休みってだいっきらいなの。
暑くてダルいし、宿題だっていっぱい出されるし、…それに友達と会う時間が減る」
そう言うあいつは長いまつ毛が伏せられる。
「まぁ、確かにそうだけどさ、友達とはうまく予定を合わせて会ったりして、遊んだり勉強すればいいんじゃないか」
「そうだけど、さ…。
それは女友達なら簡単だけど、その…」
話の流れから察するにどっか男のことを考えている。
あいつの少しだけ赤くなった顔を見て、俺はワイシャツの胸の辺りをギュッと掴んだ。
アニメに出てきそうな入道雲に青い空
響くセミの鳴き声
流れる生温い空気
どれもこれも夏を感じさせるものに嫌気が差した。
そうか…、夏休みに入ればほとんど会えないんだ。
同じクラスで隣の席で気が合う、俺が片想いしている女友達。
あいさつして、他愛ない話をしたりふざけたり、ちょっとしたことでドキドキしたり…
そんな毎日していたことが夏休みでなくなる。
あぁ、俺も夏休み嫌いになりそうだな…。
「けど、霧野に毎日会えなくなるのが一番嫌。
たぶん霧野はあたしのことただの隣の席のやつくらいにしか思ってないだろうけど、あたしは…」
そう捲し立てるように言うと思ったら、ピタッと止まった。
「や、そのっ、ごめん!!
なんでもない!!今のは、独り言だから!!」
そう叫ぶように言うと机に顔を伏せる。
夏らしく結い上げられたポニーテールはあいつの耳がよく見え、その耳は真っ赤に染まっていた。
何だこれ、期待しちゃいそうなんだけど…。
「俺もさ、今さっき考えたんだけど、お前に会えなくの嫌だ。
だからさ、クーラー効いた部屋で勉強したり、出かけた先でアイス食べたり、プール行ってふざけたり、花火大会ではお前の浴衣姿が見たい…。
だから、この夏から俺の彼女になってください」
眩しいくらいの青色が
目に焼きついたあの日
俺たちが大嫌いだった夏が大好きになった。