遠慮がちに響いたノックの音に、私の胸が大きく跳ねた。
「…入るぞ」
聞こえた声に、俯いていた顔が反射的に上がると同時にゆっくりとドアが開いた。
「…翔」
いろいろ言いたいことがあるのに、胸がぎゅぅと締めつけられて何も言えなくなる。
柔らかな光を浴びる彼は、いつも以上に輝いていた。身にまとう真っ白なタキシードは、まるで童話の王子様そのものだった。
「…なんかさ、」
「うん」
「いろいろ言いたいんだけど、なんか胸が苦しくって言えないつうか…」
手を伸ばせば届きそうなほんの少し離れた所で照れたように笑う姿に、目と胸のあたりがじんわりと熱くなる。
「私もだよ」
「…ん?」
「私も、いろいろ言いたいのに、言えないの。…翔と、おそろい」
恥ずかしくなって目をそらすと、左手を優しく包まれた。
「なまえ」
名前を呼ばれて、そっと顔を翔の方へ向ける。
「今日まで俺に着いてきてくれてありがとな。学園の頃から、ほとんど隣にいてくれてるんだよな。
これからも、苦労かけるし、辛い思いも悲しい思いもさせるかもしれない。だけど、俺はお前のことを全力で守りたい。
だから、これからもずっと、俺の隣で笑っててくれ」
私はその言葉に零れそうになる涙を堪えながら、何度も何度も頷くことしかできなかった。翔は、そんな私の頭を撫でてくれる。
「そろそろ時間だな」
部屋の時計が、始まりの時間の5分前を指していた。
私は、翔の手を握り返してイスから立ち上がった。
「行くか」
「うん。…翔、2人で一緒に幸せになるんだからね」
「もちろん、当たり前だろ」