この感情もこの涙も笑顔が似合う君も、いつの日か振り返ったときに、積み重ねられた思い出の一つとして埋もれているのだろう。

嗚呼、
それはなんて――…






涙色





「今日も宍戸先輩といっぱい話せたよ!」


部活の帰り道。
前方には夕日が一つと、左方にはきゃっきゃ嬉しそうにはしゃぐ友人一人。


「でねでね、今週一緒に練習しよって誘われたんだ!!」
「ふーん」
「なに、その反応。日吉いつもより冷たくない?」
「…」

冷たいも何も、毎日帰る度におのろけを聞かされていたら誰でもいい加減飽きてくるものだ。

そんなことも分からないのか?

なんて口には出さないけれど。

自分のこの反応は予想の範囲内なのか、彼は特に気にした様子もなくあーあと空を仰いだ。


「宍戸先輩、俺と付き合ってくれないかなぁ…」


それは独り言とも取れる言い方で、直接自分に投げかけられた言葉ではないから返事はしない。


「日吉、おれね本当に先輩が好きなんだ。絶対に誰にも渡したくない」

ちらりと見た横顔は普段の振る舞いからは想像できないほど真剣な表情で、その目には邪魔者を排除しかねないほどの光が宿っていた。


「…そうか」

それに圧倒されるように、日吉は視線を地面に落としてかろうじでそれだけ言った。


「あのきれいな髪の毛とかさぁ、おれを下の名前で呼ぶとかさぁ――…」

それからいつもの文句を語り出す。落としていた視線を再び彼に向けると、いつものほんわりとした空気をまとった彼がいた。



好きな先輩について語っている友人の隣で、落としていた視線を隠すように日吉は目を伏せた。

ほんとは、
ほんとは自分もその先輩が好きなのだと言いたかった。


「あの髪の毛、近くで見るときらきらしててさ――」

(知ってる)


「遠くからだと黒色じゃん、でも近くで見るとあの瞳は青みがかってるんだよ」

(知ってる)


「普段は怒鳴ってて恐いけどね、でもほんとはその裏に愛情がたっぷりあんの」

(知ってる)



だって、
ずっとずっと見てたんだ。





あーもうだめだー好きすぎるーと言って、鳳は空を見上げた。

「絶対おれのものにしてみせる」

意を決したように言った彼は、さっきと同じ表情。彼の見る空と真逆に位置する石ころを見つめながら、日吉はああと思う。


(そんな覚悟を決めなくても良いのに)




ずっとずっと、
おまえより前から見てたんだ





たぶんきっと、先輩は。


おれの好きな、先輩は――…



***

吹く風は夏の香りで、見上げた空には夕焼けが入道雲に映えていた。



「ごめん、日吉。もう一緒に帰れない」


そう切り出されたのはつい数日前。ちょうど彼が告白するんだと意気込んでいた日だった。


自分にもそんな勇気があったなら――…なんて考えてやめた。





ずっとずっと見てました。
あなたがいたから入部しました。
あなたと対等の立場になりたくてレギュラー目指してました。
できることならダブルスを組みたいと、一人で練習してました。

ずっとずっと見てました。
あいつより前から見てました。

ずっとずっと、好きでした。





ふわりとくすぐる風の絵の具は、涙色。



fin






Dear.ひか様

Thanks.5555hit!!

From.さかな






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