ヤキモチニスト





「今日はまた一段と寒いのぉ」


そう言いながら目の前に座る仁王雅治はホットコーヒーをすすった。

(当たり前だ世間はもう12月)


『今日は部活が休みになったけぇ駅前のファミレスで待っとるよ』

まるで部活終了を見計らったかのように届いたメール。普段はメールや電話のやり取りなんて一切しないのに、たまにこうしてふらりと現れた時にだけここにいるだのあそこにいるだのと連絡してくる。来いなどと言われたことは一度もないのに、こうして毎回毎回会いに来る自分も大概だった。

(たぶん俺は狂ってしまったんだ)


「なんじゃ、面白くなさそうじゃの」

「俺が楽しそうにしてるとこを一度でも見たことがあるんですか?」


ないのぉと彼はあっけらかんと答えてくすくす笑った。


「誕生日くらい楽しんだらええのに」

「……」

「おめでとう」


何で知ってるんだとかそれを言いにわざわざ来たのかとかいろいろ聞きたいことはあったけど、手元にあったお茶を取って無理やり喉へ流し込んだ。

(まるで期待してるみたいじゃないか)
(バカか俺は)


乱暴にコップを置くと、仁王が身動ぎをした。その時にわずかに漂った、この人のとは違う匂い。

甘ったるい、香水の匂い。

少し睨みつけるように顔を上げる。

「また…」
「ん?」
「また誰かを傷付けてきたんですか?」
「傷付けたなんて人聞きが悪いの。向こうから言い寄ってきたんじゃ」
「だからって…ッ!!」
「だから、なに?」
「…もういいです」


ふいと視線を反らすが、目の前の銀色の男はにやにやとこちらを見つめていた。

この人からどこの誰だか分からない女の匂いがするのは、もう当たり前のことだった。ここに来る前、自分の知らないところで知らない女と触れ合っているこの人を想像すると毎度毎度吐き気がした。

もしかして、と仁王が口を開いた。


「俺が女にモテて悔しい?」

「勘違いも甚だしいですね」


冷たく言い放って頼んだぜんざいを口へかき込む。味は何もしなかった。

くすくすと肩が揺れた拍子に、また漂う知らない女の香り。毎回変わるそれは不愉快極まりないのだが、今回はいつも以上に鼻について仕方なかった。

女を抱いた後、こうして現れる彼がどうして毎回自分に連絡を寄越すのか、そしてどうして酷く傷つくのは分かっているのに毎回会いに来てしまうのか、彼も自分もさっぱり意味が分からなかった。

ぐるぐると悩んでいるうちに潤んでしまった瞳を隠そうと慌てて下を向いたが、

「ひよし?」

「…ッ!!」

この人の洞察力には叶わないようだった。


ふわりと大きな手のひらが頭にのった。


「お前さんはいつもクールで何を考えているのか分からんからの、少し気を引きたかったんじゃ」


だからごめんね、とその手はわしゃわしゃと頭を撫でた。

「こんなに妬いてくれてるとは思わなかった」
「…ッ、バカ」
「ごめん、」
「あんたなんか嫌いだ」
「知っとる」
「本当に嫌いだ」
「うん、知っとるよ」


あんた昨日誕生日だったんですよね別にどうでもいいけど、なんて当初に言おうと思っていた言葉は結局その日は言えず、大きな手のひらの感触だけがひたすら残っていた。



fin.




―――――
二人とも誕生日おめでとー!!!!




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