狂愛
例えば、この世に生あるもの全てと引き替ても失いたくない人がいたとして。
その人が隣に座っていたらそれをたぶん「幸せ」と呼ぶのだろうから、きっと俺は今幸せなのだ。
「好き」
そう言って何がおかしいのかクスクス笑った。
好きな人が隣に座っていることを「幸せ」と呼ぶのなら、その人が自分を好いてくれた時に使う言葉は――……
「 」
神様神様。
どうして言葉なんて作ったの?
俺は怒るけど、あなたはきっと笑うんでしょ?
世の中なんてしょせん無意味の集合体だよって、笑うんでしょ?
意味があるのは日吉を好きなことくらいかな、なんて付け加えたりして。
そうやって、そうやってあなたは一つずつ俺を救っていって。
気づいていないでしょ?
「あとどれくらいあなたの傍にいていいですか?」
理解できなかったのか、きょとんとしてそれからやっぱりあなたは笑った。
あまりにも残酷な言葉はあなたの心に届かずに、広い空に消えていった。
fin.