「あ、」
「?」


痛いだの文句を言ってた名前が、突然小走りで走って行く。

そして茶屋のベンチに腰掛けている人物に、後ろからタックルをかました。


「どーん」
「ブフォ!」
「やだ汚い。やめてよそういうの」
「いやテメェのせいだよ」


そう言って振り返った男と目が合う。

その顔はあまりに見覚えがありすぎた。


「旦那じゃねぇですかィ」
「へえ、今日は珍しく総一郎君とペアなんだ」
「総悟でさァ。旦那、こいつと知り合いですかィ?」
「知り合いも何も、俺達はあんなことやこんなこともしてき」
「はい勝手に捏造しないでねー」
「いだだだ、髪引っ張んなって」


名前の表情や、敬語がないあたり、二人は俺が思った以上に仲が良いらしい。

俺と名前のペアが珍しいと知ってることからも、頻繁に会っているんだろう。


なんだかあまり面白くない。


「二人は俗に言う恋人同士ってやつなんですかィ?」
「そりゃこの通り」


そう言うとニヤリと笑って名前の肩を抱き寄せた旦那。


「な に が、この通りじゃボケェ!」
「いだだだ、すんません俺が悪かったからほんと髪だけはやめて」
「わかればよろしい。というわけで全くもってそんな仲じゃありませんから。変な噂流さないでくださいね、隊長」
「…何でィつまらねェ。せっかく良いネタになると思ったのに」



と言ったものの、それを聞いて心が軽くなった気がする。


何故か、なんて本当はわかってる、けど、俺の中のちっぽけなプライドが、それを受け入れてくれない。

あるわけがないんだ、そんなこと。
あいつはただの生意気な隊士で、ゴリラも同然で、でも、


「せっかくですし、ここで少し休憩しましょう、沖田隊長」


にっこりと笑った名前を見て、俺の小さなプライドは粉々に砕け散った。


俺の負けだ。
潔く認めよう。

俺は、この馬鹿がどうしようもなく好きだ。


20120319



 
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