「名前!」
「エ、エース!?」



すぐ横の古い倉庫から伸びてきたエースの腕が、走る私の腕つかんでを引っ張り、すばやく引き入れられる。


バタン、ガチャ


勢いよく扉をしめ、きちんと施錠するエース。



「エース!なん「静かにっ!」」



私の口に手を当てて黙らせ、自身の気配を消すエース。


タッタッ、と足音がして、私も一生懸命気配を消す。



「…ったく、名前のやつ、どこ行きやがったんだ?」



声の主はサッチ。

サッチは一言こぼし、立ち止まることもせず、遠ざかる足音だけが聞こえた。


その音を確認したエースは私の口を覆っていた手をどけた。


「…ぷはっ、…エース!なんで私が逃げてることに気づいたの?っていうかなんでここに?」
「まあ落ち着けって」


おっと、驚きすぎてテンパってしまった。

落ち着くためにゆっくりと深い呼吸をする。


「お前、あれだろ?厨房の近くに来たら突然無実の罪で追っかけられた、とか」
「!!…なんで」


そう、その通りだった。

厨房の近くを通りがかった瞬間、サッチが厨房から出てきて私を指差し、ただならぬ形相で一言。


「お前かああああ!!」


で追っかけられた。

いや、何が?って感じだよほんとに。迷惑極まりない。



「今厨房で大量の食料が消えるって事件が起きたんだ」
「え、まじ!?」
「まじだ。それで犯人探してピリピリしてるってわけだ」


ま じ で か !!

それ相当ヤバイじゃん!
次の島までもつのかな…?


ていうか大量って…、私のイメージどんなだよ。



「……でも、何でエースがそんなことを?」
「それはだな―――、」


真剣な目付きになったエース。

私はごくり、と唾を飲み込む。


「それは、―――俺が犯人だからだ」




…………バシッ!


「いってぇ!」
「いってぇじゃないよ馬鹿!何やってんの!!」



どうりで!
私が逃げてるのがわかった理由も、ここにいる理由も繋がった。


全部こいつのせいだ!


本当に何なんだ!
すごい腹立つ!

私がどんだけ大変な思いで逃げたと思ってるんだ!!


「だからこうやって助けたじゃねぇか!」
「そういう問題じゃないでしょ!とりあえず今すぐ出頭しよう」


出口に向かう私の腕をエースが掴む。


「ちょっ、待てって!せっかく良い隠れ場所見つけたのにまた追っかけられるぞ!」
「エースが出頭すれば済む話でしょうが!」


エースを引きずりながら扉に手をかける。


ガチャガチャ、


「……あれ?」
「どうした?」
「…扉が開かない」



鍵は開けた。

ガチャガチャ、と何度もトライしてみるものの、やっぱり開かない。


その様子を見てエースも開けようとするものの、やっぱり開かない。



「…これってさ、もしかしなくても、」
「閉じ込められたな」



一瞬の沈黙。


それを破ったのは私だった。

ドンドンドン、と音をたてて扉を叩く。


「誰かー!!」


そうしてはみるものの、扉を挟んだ向こう側に人の気配は感じられない。


「やめとけって!体力削るだけだ」


エースに止められる。

確かに言う通りだけど…


「うわああん!エースの馬鹿!」
「わりぃわりぃ!まさかこんなことになるとは」


おいそこ!
もっとまじめに謝りなさい!

と言ったところで意味がないのは目に見えてるので何も言わなかった。



「……とりあえず、人が通るのを待つしかないね」














「寒い……」


どれくらい経ったかな…。
多分三時間は経ってる。


使われてない倉庫だからか、人が前を通ることも少ないらしい。


「もうやだ。全部エースのせいだし。ばーか」
「すんませんでした」


どうやら本気で反省してるらしい。


「このまま人が来なかったらどうしよう」


ぽつりと言うと、隣に座るエースが妙に真剣な表情でちらりとこちらを見たのがわかった。

私はあえて視線を合わさない。


エースはまた前に向き直る。


「名前、」
「……何」
「俺がいるから、大丈夫だ」


そう言ってエースの左手が私の右手を握った。


……、何ときめいてるんだ。
私は馬鹿か。こうなった原因はエースにあるっていうのに。


「何で、手?」


照れ隠しにやっと絞り出したのがこれ。やっぱり私は馬鹿だ。


「なんかここにいるって感じすんだろ?それに――」
「?」
「さっき寒いって言ってたじゃねぇか」
どうやらエースも馬鹿らしい。
照れ隠しがばればれだ。


でもなるほど、確かに繋いだ右手は温かい。

ここにいるよ


それからちょっとして無事救出された私達は、食料のことを含めたんまり怒られた。


(エース、お前ならあんな扉ぶっ壊せただろ)
(ちょ、)
(え?)


20120117

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