今日の家庭科の授業はおにぎり実習。
皆が楽しみにしてるイベントであり、それはもちろん例外なく私も。
女の子は好きな男の子に自分のおにぎりをあげたいわけだし、男の子は好きな女の子におにぎりをもらいたいわけで。
つまり私はバレンタインにも似たこのイベントにおいて、次なる皆の恋路を見守ることができる。
これ以上の幸せはない。
皆が調理室に足を運ばせる中、私はトイレに行ってからゆっくり調理室に向かっているため、廊下には誰もいない。
と思ったけれど、廊下には見知らぬ美人のお姉さんが壁に寄りかかって立っていた。
不思議に思っていると、お姉さんは私に話しかけてきた。
「ねぇ、人は愛のために死ぬことができると思う?」
突然の問に驚く。
人が愛のために死ねるか?そんなの決まってる。私なら迷わず、
「できますよ」
「!…そう」
「はい。愛って、素敵なものですよね。私はこの世にこれ以上にすばらしいものはないと思っています」
「あなた、気が合いそうね」
嬉しいわ、と言葉を残し廊下を去っていく美人さん。
いつかあの人と愛のすばらしさについて語りたいな。
おにぎり実習は順調だった。
皆それぞれ好きな男の子の顔を思い浮かべながら、きらきらとした表情でおにぎりを作っている。
本当に楽しみだ。
このあと、皆が自分の恋を叶えるための一歩を踏み出すことになる。
私は少し離れたところから見守っていよう。
そんなことを考えながらおにぎりを作っていると、京子ちゃんと花に話しかけられる。
「ねえねえ、名前ちゃんは誰にあげるの?」
「気になる。名前って好きな人とか想像つかないし」
「え、私?私は誰にもあげる予定はないよ」
「ええ!もったいないよ名前ちゃん!」
「そうかな…?作ったおにぎりはちゃんと食べるから、粗末にはしないつもりだけど…」
「名前、そんなことを言ってるんじゃなくて、あんたにもらいたいと思ってる男子、いっぱいいると思うってこと」
………??
つまりあまりにお腹は減ってるけど、好きな子以外からはもらいたくない人がたくさんってことかな?
私なら勘違いされることも嫉妬されることもない安全域だからね。
「わかった」
「本当にわかったの?」
疑いの表情でこちらを見据える花に、花は誰にあげるの?と聞くと、赤面しながら別にそういうんじゃなくてと弁解し始めた。
花に好きな人がいたことに驚いたけど、すごく素敵なことだよね。
実習が終わってからはすさまじかった。
死ぬ気モードの綱吉がクラス中のおにぎりというおにぎりを食べつくし、京子ちゃんに告白していた。
なんていうか…うん、すさまじかった。
おにぎり実習にさえ死ぬ気弾を使うほど綱吉は本気だったなんて。
こんなすばらしいものを見れて、今日はすごく幸せです、まる。
すると前に綱吉を見つけた。
「綱吉!」
「んな、名前!?」
「さっきの、かっこよかったよ」
「え、いや…、!!そういえば名前のおにぎりも食べちゃったかな?俺覚えてなくてそのっ…、」
目に見えて狼狽え出した綱吉ににっこり笑う。
「無事だよ。私離れてたから。食べる?っていらないか。たくさん食べたあとだもんね」
「……!、食べるよ!!」
私の顔を見て一瞬固まったあと、食べると言ってくれた綱吉。
あんなにたくさん食べたのに、貰い手のいないかわいそうな私のおにぎりを貰ってくれるとは、なんて男前なんだろう。
「じゃあ京子ちゃんのには負けるけど…」
「そんなっ!ありがとう」
笑顔の綱吉にこちらまで笑顔になってくる。
「名前〜、俺にも!」
「野球馬鹿は引っ込んでろ」
後ろから私の肩に両手をぽんと乗せ、顔を横から覗かせる武。
さらにその後ろから隼人。
そして二人して綱吉の方をチラリと伺う。
そうか…!
これは綱吉にアピールしてるんだ!
嫉妬してくれよな、みたいな。
それなら…!
「うん、はい」
「「「!!」」」
私が武におにぎりを差し出すと、なぜか驚いたような顔をする三人。
そして何やら騒ぎ始める綱吉と隼人に固まっている武。
二人で同時に話すから何を言ってるのかよくわからない。
え、もしかしてジョークだったってこと?
「あ、ごめん。ジョーk」
ジョークだった?と言いかけた私の言葉を遮って、ぱくり、と私のおにぎりを食べる武。
その様子を見て一瞬静まったと思えば、さっきよりも騒ぎ出す綱吉と隼人。
あれ、私何かやらかしたかな?
(名前!名前にそんな考えはないと思うけどそれはやばいよ!)
(ふざけんな野球馬鹿!今すぐやめろ!自分で食え!!)
(いや、名前があーん、ってするから)
(隼人も食べる?)
(!!………食う)
((!?))
(はい、どうz)
((名前ー!!))
20120614
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