「オイオイ冗談きついぜ山本ー!」
「そりゃやりすぎだって」


朝学校に来ると武が自殺するという話になっていて、クラスの皆で屋上に来た。

私も冗談だと思いたかったけど、武は人を困らせるような冗談は言わない。
それに腕を折ってしまったという話を聞いて、昨日の真剣に悩む武の姿を思い出して、嫌な想像をしてしまう。


「へへっ、わりーけどそーでもねーんだ。野球の神さんに見すてられたらオレにはなーんも残ってないんでね」


そう言った武の表情は妙に落ち着いていて、きっかけさえあれば今にも飛び降りてしまいそうだった。

何とか止めないと…!


「武!」
「…名前」
「武おかしいよ!腕を折ったら一生をダメにするなんて違うと思う!」
「……」
「私は野球には詳しくないけど、野球をするのに腕はすごく大切ってことはわかる。でも、骨折なら治るじゃん!」
「だからって」
「そりゃ前と全く同じようにするには時間はかかるかもしれないけどさ、時間があればどうにかなるんじゃないの?」
「……」


眉間に皺を寄せて黙る武。


筋を傷めたりしたら一生できないかもしれないけどさ、骨折なら時間をかければどうにかなるんだよ。

私たちはまだたったの中学一年生なんだから、人生を諦めるには早すぎる。


「あたっ!いつつ………っ」
「ツナ…」


勢いよく出てきた綱吉に、周囲の視線が集まる。


「止めにきたならムダだぜ」
「武!」
「おまえならオレの気持ちがわかるはずだ」
「え?」


見るからに焦っている綱吉。

武の命がかかってるんだよ、がんばれ!


「ダメツナってよばれてるおまえなら、何やってもうまくいかなくて死んじまったほーがマシだって気持ちわかるだろ?」
「えっ、あの…っ。いや…、山本とオレはちがうから…」


その言葉に武が反応する。


「さすが最近活躍めざましいツナ様だぜ。オレとはちがって優等生ってわけだ」
「え!ち、ちっちがうんだ!ダメな奴だからだよ!!」
「!?」


青ざめて必死に弁解する綱吉。


「オレ、山本みたいに何かに一生懸命打ちこんだことないんだ…。『努力』とか調子のいいこと言ったけど、本当は何もしてないんだ。………昨日のはウソだったんだ………ごめん!」
「綱吉…」
「だからオレは山本とちがって死ぬほどくやしいとか、挫折して死にたいとか…そんなすごいこと思ったことなくて…。むしろ死ぬ時になって後悔しちまうような情けない奴なんだ……………どーせ死ぬんだったら死ぬ気になってやっておけばよかったって。こんなことで死ぬのもったいないなって……………」


言葉って不思議。
昨日の綱吉のウソより、さっきの私の綺麗事より、美しくなくて飾り気のないこの言葉が一番心に響く。

この様子なら、きっと武は大丈夫だろうな。


「だからお前の気持ちはわからない…。ごめん…」


緊迫した空気に耐えられなくなったのか、「じゃ!」と言って立ち去ろうとする綱吉を武がつかむ。


綱吉が足を滑らして後ろに倒れる。


錆びたフェンスが折れて…


「綱吉!武!」


叫んだときには遅かった。

落下していく二人。


こんな結果は誰も望んでいなかった。

誰もがダメだと思ったそのとき、



「空中復活!!!死ぬ気で山本を助ける!!!」


綱吉はそう叫ぶと、武の体を支える。

そのあと、かゆい、なんて叫びと共に綱吉の頭から………バネ、かな?…まあ生えてきて。


「うそーっ」
「ぶ…無事だぞ!!」
「こんなことありえんだろ…」

屋上にいたクラスメートたちは無事な二人を見て、ジョークだと結論づけると、ぞろぞろと教室に戻っていった。


なんていうか、……ものすごい解釈のしかただ。

そう思いつつ、私も屋上をあとにした。


















「綱吉!武!」
「「名前!」」


校舎の外に出て、笑う二人に声をかける。


「二人とも大丈夫なの?」
「うん」
「大丈夫だぜ」


笑って言う二人に安心する。

骨折してるのに屋上から落ちて平気とかすごいな。


「名前!お前の言う通りなのな」
「え?」
「こんなことで死ぬなんて俺間違ってた!はは、かっこわりーな俺」
「そんなことないよ」
「!」
「それだけ野球と正面から真剣に向かい合ってたってことでしょ?だから、全然かっこ悪くなんかないと思う」


そう言うと「素でそんなこと言うとかずりぃ」なんて武が笑うから、私も笑う。
つられて綱吉も笑う。



その様子を一人のヒットマンが笑って見ていたことを、私たちは知らない。




(綱吉これ、上着)
(あ、ありがとう!)
(はは、妬けるのな)
((はっ!武は綱吉が好きなんだった!!))


20111228


『ものすごい解釈のしかただ』ってお前が言うなww


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