「綱吉」
「名前!何でここに…」
「何って、手伝いに」
体育のあと、グラウンドを1人でトンボがけを任される綱吉を見て、手伝いに来た私。
多分、クラスの男子はツンツンしすぎてデレるべきタイミングがわからなくなってるんじゃないかな。
それじゃあいつまで経っても綱吉の気は引けないのに。
綱吉はリボーンや獄寺君にもモテてるのに気づかない、鈍感なタイプみたいだから。
京子ちゃんにしか目がないだけかな?それはそれで素敵だけど。
「助っ人とーじょーっ」
「山本!?」
「あ、武」
トンボを持って笑顔で現れた武は、綱吉といくつか言葉を交わしている。
この二人が話してるの初めて見たな。
笑いながら聞いていると武がとんでも発言をかます。
「オレ、おまえに赤マルチェックしてっから」
「「えっ」」
その言葉に私まで反応してしまった。
まさか武まで……。
赤マルチェックって…綱吉、これはどう見てもモテキだな。
顔を赤らめながら口ごもる綱吉。
照れてる…!
ってことは武、望みは0じゃないみたい。良かったね。
「それにひきかえオレなんてバカの一つ覚えみたいに野球しかやってねーや」
「なっ、何言ってんだよ。山本はその野球がすごいじゃないか」
「そうだよ。一年生でレギュラーなんて、簡単にできることじゃないよ」
「それがどーもうまくなくってさ」
「「え?」」
話を聞けば、どうやら武は今スランプ中らしい。
「ツナ、名前…オレどうすりゃいい?」
「え゛え゛!?(オレにきくのー!!?)」
「……」
いつになく真剣な顔で言う武。
すぐに表情を戻して「なんつってな」なんて言ってるけど、本気で悩んでいるに違いない。
「やっぱ…努力…しかないんじゃ……ないか…な…」
おずおずと言う綱吉。
冷や汗をかいているし、目だって合わせてない。
綱吉らしくないなあ、なんて。
肩を組んで笑う二人を見ながら思った。
「名前!」
放課後、日直だった私が教室に1人残って日誌を書いていると、ユニフォーム姿の武に声をかけられた。
「武、今から部活?」
「おう!名前は何してんだ?」
「私は日誌を書いてるんだ」
「そういえば今日日直だったな」
ははは、と笑いながら私の前の席に座り、日誌を覗きこむ武。
「?…部活、行かなくていいの?」
「いや、行くけど。今日は自主練だからちょっとくらい遅くなっても平気なのな」
「あ、私に気を使わずに行っていいよ」
「俺が好きでここにいるだけだから」
「ありがとう、武は優しいね」
日誌を書く手を止め、顔を上げて笑って言うと、武は一瞬目を見開き、ふい、と反らした顔に手を当てている。
「どうしたの?大丈夫?」
「だ、大丈夫なのな!………でも、ちょっとこっち見ないでくんね?」
「あ、うん。ごめん」
そうか!
私の笑顔は目に毒だったか。
気をつけなきゃ。ごめんね。
「いや!そういうんじゃなくて…だけど、……その、何て言うか……心臓に悪いから」
まじでか!
心臓に直接作用するなんてどんだけ目に毒なんだ…!
一応女として少しショックだけど、これは本当に気をつけないと。
「わ、わかった!」
「(…本当にわかったのか?)」
武はきっと私が終わるまでいてくれるんだろう。
そういう人だから。
なるべく早く終わらさなきゃ。
「名前、今日はありがとな」
「え?」
「ほら、トンボがけのときさ…」
「…ああ!でも私何も言ってないよ」
「でも、話を聞いてくれただけで嬉しいのな」
「……」
「だから、ありがとな」
そう言って笑った武はどこまでもまっすぐで、やっぱり優しい。
「……無茶はしないでね」
「え?」
「練習する、つまり努力をすることも大切だけど、どうしたってそれだけじゃだめなときもある」
「……」
「武が誰よりも努力してるの、私は知ってるよ。だからたまには休むことも必要なんじゃないかなって」
「……」
真剣な顔つきで黙る武。
…やっぱりまずかったかな。
野球のこと何も知らない私なんかには言われたくないだろうし。
ただ、無茶しないでほしい。
それだけは本当。
「武、日誌終わったよ。付き合ってくれてありがとう」
「おう!気にすんなって」
声をかけるといつもの調子で笑う武。
荷物をまとめていると、武がぽつりと言う。
「優しいな、名前は」
「…え?」
「心配してくれてサンキューな!俺、そういうこと考えたことなかったからさ、本当にありがとな!」
その笑顔に偽りはなくて、本当に受け止めてくれたんだということがわかり、私も笑った。
(やっぱり武は優しいよ。トンボがけをする綱吉を手伝ったり、私を待ってくれたり)
((…どっちも名前といたかっただけとか言えない))
20111227
なんか予想以上に山本が押せ押せなんだけど←
←→