「あーもうわかんねぇよー。名前はすげぇな。よくこんなのできるよなぁ」
「おいルフィ、黙ってやれ」
補習が終わり各々が帰宅していく中、ルフィとゾロはまだ残ってプリントを解いていた。
まあ寝てたんだから当たり前だよね。
で私はこの二人に教えてやってくれ、なんて先生に頼まれて教えなきゃいけないことになっている。
教えるのが先生じゃないのか。仕事しろこんにゃろー。
「おい名前、できたぞ」
「ゾロ!じゃあ見せて」
「これでいいのか?」
「……………うん、違うかな」
色々間違ってるよゾロ。
残念ながら公式が全然使えていない。
「はあ?知るか。俺はそれを出して帰る」
「ゾロ〜、俺も帰りてぇ。腹減った」
「じゃあさっさと終わらせろ。俺は部活があるから行く」
「がんばれー」
荷物をまとめて教室を出るゾロを見送る。
そのまま出すなんてゾロらしい。
ていうかルフィ、あんだけメロンパン食べてもうお腹空いたのか!
「俺もうやりたくねぇよー」
「ああもうわかった。私の見せてあげるから写しなよ」
「ほんとか名前!ありがとう!!」
笑顔でプリントを写し始めるルフィ。
すらすらと写す音だけが教室に響く。
ガラガラガラッ
突然教室のドアが開く音がして振り返る。
やばっ先生だったらどうしよう…
「よ!」
そこにはあの輝かしい笑顔の先輩がいた。
「エース!!」
目をキラキラさせるルフィ。
そうか。そうだよね。
落ち着いて考えてみれば、先輩はいつも寝たりさぼったりしてるって言ってたんだから、補習に来てたっておかしくない。
「お、名前もいるじゃねぇか」
「どうもでーす」
ペコリと頭を下げて言う。
うわーうわーどうしよう!
こんな補習の日にまで先輩と会えるなんて!
今初めて自分の適当な授業態度に感謝したよ。
エース先輩はこちらに歩いて来ると、今ルフィが写しているプリントを覗きこむ。
「遅いから来てみれば……ってルフィ!お前ちゃんと自分でやれよ」
「だってわかんねぇんだよこれ」
ああ、この兄弟いいな。
見てると和む。
「このプリントは名前のか」
「あ、はい」
「字、きれいだな」
私のプリントを手に持ちながら言った先輩の言葉に、いい加減暑いっていうのにそれに負けじと自分の顔が熱くなるのがわかった。
私はそれに気づかれまいと視線を反らす。
「別に、普通ですよ」
「いや、見やすくていいな」
ああもう先輩は私を殺す気ですか。
心臓がうるさくてすごく苦しいんですよ。
でも先輩は容赦なく私を瀕死の状態に追い込もうとしてるらしい。
とんでもない言葉の爆弾を落とした。
「俺、名前の字好きだぜ」
一瞬私の世界が止まったように感じた。
別に自分のことを好きって言われた訳じゃない、ただ字が上手だねって、それだけの話。
でも何に対してであろうが、好意をよせる人に言われるその2文字を、意識するなと言われる方が無理難題なわけで。
「あ、ありがとうございます…」
消えそうな声でお礼を言うのがやっと。
仕方ないじゃん、今まで恋愛どころか好きな人だってちゃんとできたことないんだから。
これが私の、初恋なんだから。
ごまかすように「今日は暑いですね」なんて言って手で必要以上に熱くなった顔を扇ぐ。
きっとエース先輩はクラスの女の子とかにも平気でそういうことを言ってるんだ。
だから今のが特別じゃないってわかってる。
それなのにどきどきしてる自分がちょっと恥ずかしい。
そんなんだからファンが多いんだよ。
エース先輩のばーか。
「終わったー!ありがとな名前!!」
そうこうしてるうちにルフィがプリントを写し終える。教卓の上に置いておけば良いと言われたため、ルフィはそのまま私と自分の二人分のプリントを置きに行く。
「やっと終わったか!じゃあ帰るぞルフィ」
「おう!じゃあな名前〜」
「ルフィの勉強手伝ってくれてありがとな」
笑顔で手を振る二人に、こちらも笑顔で手を振り返す。
二人が歩いていったのを確認すると、はあ、と一つため息をつく。
私はもう少し教室に残ってから帰ろう。
顔が熱くてとても人前に出られない。
風に当たろうと思い、窓を開ける。
そよそよと心地よい風が吹いて私の髪を揺らし、上がった体温を下げる。
ふと下を見ると、笑いながら並んで歩く先ほどの二人。
やっぱり私は先輩の笑顔が好きだ。
見ているこっちが幸せになる。
その笑顔を見るたびにエース先輩への好きがどんどん積もってるですよ。
「好きです、エース先輩」
誰にも聞こえないような小さな小さな声で呟く。
その瞬間、
エース先輩が突然振り向いて、笑顔でこちらに手を振った。
それに気づいた隣のルフィも笑顔でこちらに手を振る。
私は手を振り返しながら思った。
近いうちに心臓発作で死ぬかもしれない、なんて。
(エース、よく名前があそこにいるのわかったな)
(ああ、声が聞こえた気がしたんだ)
(そうか?何て言ってたんだ?)
(……言わねぇ)
(えー)
20111227
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