―――何でそんな泣きそうな顔してんだよ。


どうして。
何で私が苦しい思いをしてるのがわかったの?
何で私が、泣き出しそうなのがわかったの…?

私はただの後輩なのに。


先輩が作り笑顔を見破ったのか。
そもそも作り笑顔なんて作れてなかったのか。

どっちかはわからないけど今、この瞬間、先輩は確かに私の本当の気持ちに気がついているらしい。


「何か、あったのか…?」
「っ…」


手首を掴まれたまま、たずねられた。


何も答えられない。
言葉がつまる。

先輩は本当に何も知らないみたいだから。


今すぐにでも自分の気持ちを吐き出してしまいたい、けど。

もしかしたら私を信じてくれないかもしれない。


そう思うとどうしても言いづらい。



「俺で良ければ、話聞くけど」


そう言った先輩の目は少しの曇りもなく、本当に真剣そのもので。


「先輩、あの―――」


私には、話さないという選択肢を選ぶことができなかった。















――――――――
――――――


「…という訳なんです……」
「…」



沈黙。

とりあえず場所を移動して、私達は屋上にいる。

つまり、先輩は授業時間を割いてまで私の話を聞いてくれているわけで。
とてつもなく申し訳ない。


話が終わったのに、隣に座る先輩は何も言わない。
どんな表情かも見えない。


正直、怖い。


「おい、」
「…?」
「名前は本当にやってないんだよな?」
「…はい」
「それが聞ければ十分。行くぞ!」
「う、え!?」


先輩が私の手首を掴んで走り出す。
転びそうになりながらも必死に走る。



「っ、先輩!」
「何だ?」
「どこに行くんですか!」
「決まってんだろ!無実を証明しに行くんだよ!!」
「!」


そう言って振り返ったエース先輩は、いつもと変わらない、いい意味で心臓に悪い笑顔で。



(心配する必要なんて、少しもなかった)



20111116


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