「お、名前!」
「エース先輩!」
「おぉ!お前、俺の名前知ってたんだな」
「先輩こそ、私の名前知ってたんですね」
「あぁ。名字は知らねぇけどな」
「私もです」
入場門に着くと、一年生女子100メートル走の人と、どうやら次の種目らしい二年生の全員リレーの人たちが集まっていた。
そして、当たり前だと言えば当たり前だけど、そこにはエース先輩がいた。
どうやら先輩は私の名前を知っていたらしい。
「名前も赤団だったんだな!ここにいるってことは、個人種目は100メートル走か」
「はい。先輩は全員リレーですよね?たすきってことはアンカーじゃないですか!すごいですね!」
「まあな」
そう言ったエース先輩は、太陽に負けないくらい眩しい笑顔だった。
すごいな、イケメンの鏡だ。
「まあ、お前も頑張れよ!赤団の優勝のために」
「あはは、私がビリになっても赤団の優勝は確実ですよ」
「何だそのやる気のない返答は!」
そう言いながらも先輩は笑顔で、私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
周りの女子たちからキャー!なんて声が聞こえる。
……い、今のはかっこよかった。
その、何て言うか…照れるな。
『プログラム七番、二年生による全員リレーです』
入場の合図のアナウンスが流れる。
「お、そろそろ始まるみてぇだな。ちゃんと頑張れよ!名前!」
そう言いながら笑顔で私に手をふり、前に進むエース先輩。
すでに少し離れたエース先輩に向かって、叫ぶ。
「エース先輩!」
先輩が声に気づいてふり返る。
私はさっきよりも大きな声で言った。
「頑張ってください!」
それを聞いた先輩がまた笑顔になって、
「おう!まかせとけ!!」
そう言って手を振った先輩はすごくかっこ良かった。
またさっきの女子たちから悲鳴が聞こえた。
二年生の全員リレーは赤団の優勝だった。
赤団は好調なスタートを切っていたが、後半には抜かされて、アンカーのエース先輩にバトンが渡ったときは、すでに三位だった。
でもそこからがすごくて、エース先輩は圧倒的な速さで一人抜かし、最後の最後で一位の人とほぼ同時にゴール。
結果はギリギリだけど一位。
審判をやっていた同じクラスのジョニー君いわく「紙一重だった」らしい。
…何て言うか、ドラマだ。
本当にすごいと思う。
神様っていたんだね、みたいな。
先輩にバトンが渡ってから、赤団に限らず女子の黄色い歓声が上がっていた。
どうやら先輩の人気はだてじゃないらしい。
ていうかこんなに人気なのによく知らなかったよね、私。
逆にすごいな。
そんなことを思っているうちに、今度は私の番。
「お前も頑張れよ!」
先輩に言われた言葉がよみがえる。
私も先輩に頑張ってくださいなんて一丁前に言ったんだ。
先輩はその通りにすごい結果を出した。
「いちについて」
私も、すごい結果かどうかは別として、本気でやらないといけないと思う。
「よーい、」
じゃなきゃ、先輩に向ける顔がない。
パァン!
スタートの合図と共に地面を強く蹴る。
スタートダッシュは成功したらしく、私の前を走る人は一人だけ。
負けたくない。
必死になって走る。
少しずつ、少しずつ差が縮まっていく。
あと少し。
『ゴール!一位は赤団です!』
勝った。
私もやればできるんだ、なんて。
(すごいわ!あんたやればできるじゃない!)
(生まれて初めて運動会で本気出したよ、ナミ)
20111013
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