久しぶりに会った親友は顔の半分をマスクで覆い隠していて、目の周りに青紫色の痣があった。



俺の両親が別居状態になり、俺と兄貴は父さんの実家に住むことになった。
父さんの実家に来るのはたしか5年振りだったっけ。

別に母さんと一緒に住んでも良かったけど兄貴の職場と俺の大学が母さんの住む家よりも父さんの実家のほうが近く、兄貴が通勤費浮くし父さんの実家から通う、と言い出したので俺は何となく兄貴についていった。


兄貴の運転する車に乗って10分程で父さんの実家に着いた。
中々広いこの家には7年程前にばあちゃんが病気で他界してからはじいちゃんしか住んでいないみたいだ。

着いて早々俺たちはまずリビングに向かった。すでにくつろいでいた父さんは歩く度にギシギシ鳴る廊下の音にやっと気付いたらしくこちらに顔を向ける声を掛けた。

「なんだ、もう来ていたのか」
「あ、うん。」
「そっか。部屋、見てきたらどうだ?」
「あー…じゃあお言葉に甘えて」

兄貴がそう言った。俺は別のことを考えていて父さんと兄貴の話しなんて聞いていなかった。
また廊下に出て2階に上がると空き部屋が幾つかあり、中を手当たり次第物色していく。

「兄貴、部屋決まった?」
「うーん…直樹は決まったか?」
「俺は突き当たりの奥の部屋にするよ。兄貴は?」
「じゃあ俺は直樹とは反対の部屋にしようかな。」
「じゃあ決まりな。あ、ちょっと友達ん家に行ってくる!」
「もしかして舜くんのとこ?」
「…だったら何?」
「いや別に?」


ニヤニヤしながら意地の悪そうに笑う兄貴を横目で見ながら俺は家を出た。
舜は俺が転校するまで一番仲の良かった友達で、家が父さんの実家の近くだったので小さい頃良く遊んでいたのだ。
またこっちに引っ越してきたことを伝えたくて俺は舜の家まで走っていく。


5分ほど走ると舜の家が見えてきた。
家の表札を見たときにふと、もう電話さえしていないのに舜は俺がわかるのだろうか、と思い始めてきた。
しかし、来てしまったのは仕様が無いので玄関の横にある呼び鈴をゆっくりと押す。
しかし誰も出てこない。…もしかして誰もいないんだろうか。
お互い良い年だし普通は出かけてるよなぁ…
そう考えた俺は踵を返し、家に戻ろうとしたその時、後ろからガチャッという音が聞こえてきた。
振り向くと同年代くらいの女の子が携帯を片手に立っている。って、え?なんで女の子がいるんだ?まさか舜の彼女…?
目が丸くなるのが自分でもわかるくらい俺は動揺していた。

「…あの、どちら様ですか?」

怪訝な顔つきで女の子は尋ねる。

「えっ?あ…山崎直樹という者ですけど…」

自己紹介をしたが怪訝な顔つきは変わらない。山崎さんね。で、うちに何か用ですか?女の子は問う。携帯を弄りながら。

「あ、舜…くんいる?」

顔色を伺いながら本題に入る。女の子は忙しなく動かしていた手をピタ、と止めた。

「…舜になにか用ですか?あの子なら暫く帰ってきてないけど」

怪訝な顔つきは変わらず、それに眉間の皺がプラスされた。もしかして地雷でも踏んだのだろうか…

「いや、あの…またこっちに住むことになったから久しぶりに会いたいなーと思っ、て…」

とりあえず事情を説明をした。
女の子は、立ち話で解決できそうにないのでなかに入って話しますか。と言いながら俺を家のなかに案内した。

何故あんなにふてぶてしいんだろう…なんて言ったら追い出されそうだがそう思ってしまった。