あ、鼻血が出た。 唇につたった赤黒いであろう滴(しずく)が緩やかに自分の鼻から流れていくのがわかる。 僕は殴られたのだ。彼氏…もとい元彼に。DVではない。 でもグーは痛いよ、ゆうちゃん。 (ゆうちゃんとは元彼の愛称だ) 「このクソビッチ、お前浮気しただろ」 「えっ、浮気なんてしてないよ」 「じゃあ何で山岡先輩とセックスしたんだよ!」 何で知ってるんだよこいつ。先輩には口止めしたのに…そう考えならがも僕は反論した。 「先輩とはシた。でも先輩が好きなわけじゃないよ!だから…」 「もういい。」 「え」 「俺たち別れよう。要(よう)にはもう付き合ってられない」 「……ごめん」 「…もういいよ、じゃあな」 顔を俯かせている間にゆうちゃんは僕がいる方向とは反対の廊下を歩いていった。 ああそうか、ここは学校だったか。周りには誰もいないせいで忘れかけていた。 しっかし最後まで糞みたいな奴だった。 束縛は激しいしセックスも下手糞だし、第一付き合おうって言ったのはあっちなのに何この仕打ち。 僕はそれでも堪えて謝ったっていうのにさぁ。さっさとあんな奴と別れられて清々した。 そう思いながら教室に戻っていたとき、携帯の着信メロディが鳴った。 それも今回の原因の山岡先輩から電話だ。 「あー…もしもし、先輩?」 「あ、要?…ごめんな、俺のせいで…あいつと別れたんだって?」 バツの悪そうな声で先輩は言った。 しかし知られるのが早すぎる。だって振られてからまだ10分も経っていないのだし。 もしかしてあいつ、皆に言いふらしてるの?…もうどうでも良いけど。 そう考えながら先輩に「大丈夫ですよ」と言った。 「…なぁ要」 緊張したような声で僕に尋ねてくる。 「何ですか先輩」 「…もし良かったら俺と付き合ってくんない?」 「えっ?」 「実は前からお前のことが気になっててさ、今回のことで要が好きだって分かったんだ。」 驚くのも当たり前だ。だって自分は先輩とは遊びでしかなかったしただのセフレだとしか思っていなかったから。 でも、元彼曰くクソビッチな僕は退屈で仕方ない。 だから、 「…良いですよ」 「…まじで?」 「まじです。先輩今どこですか?」 「えっ、図書室だけど…」 「じゃあ今からそっちに行きますんで待ってて下さい」 だから、セックスとキスとハグはいつだってしてほしい。 そう言って自分から電話を切ったあと、僕は図書室に足を向ける。 図書室に着くと貸し出しカウンターの前で先輩は待っていた。 「要、」 そう言い、微笑みながら。 20111130 加筆 20120423 |