梅雨明けしてまだ一週間程しか経っていない外の街を歩くと薄っすらとした汗をかくようになったなと思い季節がだんだん夏へ近づいてゆくことを実感し始めた6月下旬。 恋人である坂口の家に忘れ物した俺は坂口の家の前に着くと4階建てのアパートの3階へ続く階段を登る。 忘れ物と言っても来週提出のレポートなので今日じゃなくても間に合うのだが何故か今は妙に坂口に会いたい気分だった。 取りに行くという連絡はいれていたので(返事は無かったが)坂口の玄関前で迷うことなく呼び鈴を押す。 ピンポーン、ピンポーンとチャイムが二回鳴って暫くしたら坂口が出てきた。 Tシャツにパンツだけといういかにも寝巻きといった格好で出てきた坂口からは汗とほんの僅かの性の匂いがした。 「あ、ごめん、中国語のレポート忘れたから取りに来た。ライン入れたんだけど見てなかったか ?」 「ああ、充電切れててそのままにしてた、すまん。取ってくるからちょっと待ってて、」 そう言って部屋に戻ってった坂口を見ずに足元の玄関を見るとハイヒールが一足綺麗に並べてあった。赤いポインテッドトゥのハイヒール。高飛車そうな女だな、と思った。 暫くすると坂口が戻ってきてレポートを渡してくれたが俺は少しだけ拗ねた声色で「ありがとう、じゃあ帰るな」とだけ言いそそくさと帰ってしまった。 帰りの道で少しだけ泣いてすぐにスマホの連絡帳を開くと「ヤミさん」という名前の人物に電話を掛けた。 「みや?どうしたの」 3コールで取られた電話にまたしても泣きそうだった。 「ヤミさん今から時間ありますか」 「みやからの誘いなら幾らでも。と言いたいところだけど明日仕事だからあんまり長居はできないよ?」 「それでも大丈夫です。今からそっち行っていいですか?」 「いいよ。お酒買うから近くなったら電話して。」 「わかりました、じゃあまた後で」 簡潔に話を済ませたところで新宿へ向かう。こういうことが多々あったからいつだって鞄の中にはゴムが入ってた。 これは浮気じゃなくて腹いせなんだ。そう思ったら楽になった気がする。 梅雨明けした東京の夜は湿気ており、身体は薄っすら汗をかいていた。 20140612 |