「みょうじせーんぱい」

笠松先輩とミーティング中に黄瀬に後ろから抱きつかれた。黄瀬は肩に頭を乗せると、「構ってー構って!」と叫んだ。耳元で騒がれるから耳がキーンってする。

「黄瀬、今笠松先輩とミーティングしてるから後で」

「センパイ今までそう言って構ってもらったことないっス!今構って欲しいっス!」

抱きつきながらきゃんきゃん叫ぶ黄瀬にげんなりしていると、笠松先輩は呆れたようにため息をついた。

「黄瀬…なまえから離れろ」

「嫌っス!笠松センパイばっかりズルイっス!」

「ズルイってなんだよ!今真面目な話をしてるんだよ!」

笠松先輩は私から黄瀬を剥がすと、「早く練習に戻れ!」と黄瀬の背中を蹴りあげた。黄瀬は一瞬私を見たが、笠松先輩の筋トレ5倍の言葉に血相を変えてコートへ戻っていった。



笠松先輩とのミーティングが終わり、部室にタオルを取りに行くと、黄瀬が着替えていた。ああ、そう言えば今日は雑誌の撮影で早退って言ってたな。
上半身裸の黄瀬が「キャー先輩!俺の着替え見に来るとか大胆」と言ってる声を無視して、自分のロッカーからタオルを取り出そうとロッカーの扉に手を伸ばした。

「黄瀬…いい加減にしてよ」

また、黄瀬が後ろから抱きついてきた。今度はさっきみたいに騒がず、私の肩に頭を埋めていた。ギュッと黄瀬の腕に力が入る。私は振り払えず、ため息を吐いた。

「今日、撮影でしょ?急がなくていいの?」

「マネージャーが外で待ってるっス」

「じゃあ、早く行きなよ」

「ねえ、みょうじセンパイは俺のこと嫌い?」

黄瀬は消え入りそうな声で呟くと、私を抱き締めていた腕は力なくゆっくりと下りていった。黄瀬の頭が乗っている肩に目を遣ると、黄瀬のキラキラしたハニーブロンドの頭しか見えなくて、黄瀬がどんな表情をしているのかが分からない。

「嫌いじゃないよ」

「なんで構ってくれないんスか」

「それなら、私じゃなくて他の子に構ってもらえばいいじゃない」

そうだよ、構ってもらいたいなら他にいくらでもいるじゃん。あんたの可愛いファンとかいるじゃん。私に拘らなくてもいいじゃん?
これ以上、無邪気に触れないで欲しい。だって、私は―――。









頬を何かが掠め、ゴンと金属音がした。
私のロッカーの扉は少し凹んでいて、黄瀬の拳があった。

「なんでそんなこと言うんスか…俺、構って欲しいとか、抱き締めたいって思うのセンパイだけっスよ。センパイ、好き。だから、振り向いてよセンパイ…」

悲痛な黄瀬の言葉に私は涙を流した。
黄瀬、私も好きだよ。だけど、輝く君の隣にいれる自信がないんだ。
私は「ごめん」と呟くと、黄瀬の拳が静かに下りていった。静かな部室には私と黄瀬の嗚咽が響いていた。

(大好きだけど、君が輝いて触れられない)



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