馬鹿かこいつ。
目の前に差し出された右手に悪態を吐けば、握手のためのそれが頭上に軽く振り落とされた。


「元の場所に帰れるまで、ここにいなよ」


いつの間にか消え失せた敬語と畏怖を追及できなくなったのは、目の前の女が正気を疑わせるような事を口走ったからだ。
会って間もない、しかも一度は不法侵入者呼ばわりした男を招き入れるか?普通の奴なら絶対にあり得ねェだろ。


「ここにいて帰る方法を探すか、わけのわからないまま外に出て、警察のご厄介になるか。…一方通行に、選択肢はないと思うよ」

「うるせェ」


わけのわからない世界、科学に関してはこちらの方が未発達なようだが、超能力が使えない今、どこまで理解と対応が追いつくか。
だいたい、ミサカネットワークが切断された状態でいつまで言語能力と歩行機能が補助されたままでいるのか。それさえもわからねェ。このまま出て行って、……悪けりゃ野垂れ死にだな。


「…あのさ、わたしお腹すいた。一方通行は?なんか食べる?」


張り詰めた空気をさっさとぶち壊して、女は勝手にキッチンに進む。聞いたクセに、俺の意見は無視かよ。


「…………コーヒー。ブラックで」

「今インスタントしかないけど」


別になンでもいい。短い返事に返ってきたのは、ひどく間延びした女の了解だった。
叩かれた場所がほンの少しだけ痛い。睨みつけても、女はもう怯まなかった。くそったれ。
   
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