ガコン、自販機が音をたてて缶を転がす。触れた指先はじわりと熱を伝えてきて、思わず表情が綻んだ。ところが、だ。


「あれ、」

「どうかしたんですか?」

「……ボタン、押し間違えた」


まだまだ熱いスチール缶を黒子くんに見せる。わたしが押したと思っていたカフェオレのボタンは、よくよく見ればミルクティーで。隣り合った品物の見た目がよく似ていたこともあって間違えたようだった。
困ったな、と呟いたわたしに、黒子くんは首を傾げる。試合ではあんなに頼もしく見える彼も、普段はただの男の子だ。


「紅茶、苦手なんだよね」

「そうなんですか?」

「うん。わたしコーヒー派だし」


そう言うと、彼は珍しいものを見るように目を瞬かせる。


「女の人って、みんなミルクティーとか好きなんだと思ってました」


人それぞれだよ。そう笑うと、それもそうですね、と黒子くんも笑う。その頬がほんの少し赤いのは恥ずかしいからか、それとも寒いからか。
よかったら、と前置きしてまだ温かい缶を差し出す。


「そんな、悪いですよ」

「わたしが持ってても飲めないから。黒子くんさえ良ければだけど」


言葉とは裏腹に、わたしの手はなかなか強引に黒子の手へと紅茶を握らせる。はにかんでお礼を言う彼の様子から、迷惑がっているということはなさそうだから大丈夫だとは思う。
それじゃ、お金…と自分のポケットを探り出す彼を慌てて制する。もともと自分の不注意でやったことだし、お金はもらわないつもりだったからだ。


「それなら、ボクがコーヒー買います。交換しましょう」

「……本当にいいの?」

「はい」


後輩に気をつかわせてしまうことを申し訳なく思ったけど、自販機へと向かう彼は何故か楽しそうだった。どうぞ。と差し出されたそれはまさしくわたしが買おうとしていたもの。本当にいいの?わたしの問いかけに返ってきたのは、黒子くんの笑みと頷きだった。


「ありがとう」

「気にしないでください。ボクがそうしたかっただけですから」


それにボク、紅茶って結構好きなんです。はにかむ彼の笑顔は、ふわふわと柔らかくて、ミルクティーを連想させるようだった。


すきですから。
   
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