「――とりあえず、説明してくれませんか?」
あなたは誰で、何の目的があって不法侵入なんてやらかしたのか。『学園都市』とは何か。
そして、先ほどのアイアンクローにはどんな意味があるのか。
「不法侵入じゃねェよ。気づいたらここにいた」
名前は一方通行、学園都市は超能力や脳科学を主に研究している科学の粋を結集した街の名。
……アイアンクローは黙秘か。
しかし、一方通行なんて名前らしくない名前だ。本名だろうか。ヘンテコな杖をついて歩いているところをみると、足が不自由なのかもしれない。…強盗目的、とかではなさそうだ。
以上の主観を含めた情報から、彼は悪い人間ではなさそうだと判断することにします。…いや、学園都市云々は正直胡散臭いけれども。
「とりあえず、家があるなら帰った方がいいよ」
「家なンざねェよ」
まさかの家なき子!?いや、家出?
混乱寸前のわたしの頭に冷静さを取り戻させたのは、皮肉にも一方通行のチョップだった。家出じゃねェ。きっと一番混乱しているのはわたしではなく目の前にいるこの人のはずなのに。彼は不意に視線をパソコンに移す。ずっと表示されたままの『学園都市』の検索結果。
ああ、そうか。彼の帰るべき場所は、
「ここには、ないんだ」
なんともないような顔をしているけど、彼は今どこにも居場所がない。
あって当たり前だったはずのものが、今ひとつもない。
それは、どんなに不安だろうか。
「一方通行」
「……」
「元の場所に帰れるまで、ここにいなよ」
「…………はァ?」
そんな状態の人を見なかったふりをして放り出してしまうことは、わたしにはできなかった。
正気を疑うような一方通行の顔は無視して、右手を出す。
握手のつもりの右手は、彼の「ばっっっっかじゃねェの」という一言で平手に姿を変えた。