「なんだ、お前もまた来ていたのか」


そう言って、彼はわたしに向かって笑いかけた。
わたしのお気に入りの場所。ここの日が暮れる少し前の気温と、通り抜ける風の心地よさは格別なのだ。
言っておくけれど、見つけたのはわたしが先だ。初めて会った日は、たまたまキミが来る時間がわたしよりほんの少し早かっただけなんだからね。
不満も露わに近づくと、彼はわたしの頭をなでる。
そんなことで、わたしがすぐに機嫌を直すと思っているなら大間違いだ。不満を一声。すると彼は苦笑して手を引っ込め、吹き抜ける風にその身を曝した。
風はわたしの頬をするりとなで、彼の髪を優しく揺らす。目が醒めるような赤い色は、きっと他の人には似合わないだろう。


「いい場所だな、風が気持ちいい」


静かに瞳を閉じている彼が何を思っているのか、わたしにはわからない。さわさわと揺れる木々の音と、相も変わらず緩やかな風。身を任せたくなるにはじゅうぶんすぎる環境だった。
お前が気に入っているのもよくわかる。と、彼は眠気と戦い始めたわたしの頭を優しくなでた。温かい掌は、わたしの意識をゆっくりゆっくり眠りの淵に引きずりこんでいく。
頭の上で、彼がくすくすと笑う気配を感じながら、わたしは睡魔に抗うのをやめることにした。


「それにしても人に慣れているな、お前」

「にゃー」


ある夏の日の話
   
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