「あっ!なまえせんぱうわぁああ!?」


なまえセンパイの背中が見えて、一目散に走ったらおもいっきり転んだ。幸い擦りむいたりはしなかったけれど、ぶつけた膝や腕が痛い。
「いってぇえええええ」と喚きながら顔を上げると、無表情のセンパイが俺を見下ろしていた。


「信じらんない。黄瀬、アンタ本当にバスケ部員なの?」

「ば、バスケ部員ッス」


落ち着きがなさすぎるだとか、前しか見てないからそうなるんだ、とか。なまえセンパイは息継ぎもせずにつらつらと俺に辛辣な言葉を浴びせる。
俺はといえば、縮こまって頷くしかできない。情けないけど、センパイは間違ったことは言ってないのだから、反論の余地がなかった。でも、センパイの言葉はかなり厳しいので、正直、ヘコみそうになったり。


「ていうかアンタモデルのくせに顔からいくとか…………まったく。ほら、黄瀬」

「へ?」


はぁあああー、なんて深いため息をひとつ吐いて、なまえセンパイは、ずい、と手を俺の前に出した。
パーの形で出されたそれに首を傾げる。途端に、形の良い眉が顰められた。怖いっス、センパイ。


「いつまで座り込んでるの、立ちなよ」

「うぁ、は、はい!」


差し出された手を取ることはできなかったけれど(だって俺の手は今、汗まみれだ)、慌てて立ち上がって、ユニフォームに付いた埃を払う。
「ん、よし」なんて、いつも無表情のセンパイが少しだけ微笑んだ。あ、かわいい。


「なにぽけっとしてるの、行くよ」

「え?行くってどこにっスか?」

「保健室」


聞き返すと、やっぱりセンパイはいつもの無表情に戻って、くるりと背中を向けた。
センパイはなんで保健室に行くなんて言い出したんだろう。もしかして怪我でもしたんだろうか。


「センパイ、どこか怪我でもしたんスか!?オレおぶっていきますか!?」

「わたしじゃなくて黄瀬だよ。転んだでしょ、手首とか捻挫してたら大変だから。…あんたは自分が、…ああもう、いい」

「えっ、なんスかなんスか!今なにか言いかけたのかすげー気になるんスけど!」


「うっさい。ほら、行くよ」と言って、なまえセンパイは俺の腕を掴む。手じゃないのは、捻挫してるかもしれないからっていうセンパイの気づかいだろうと思う。
冷たくて無愛想に見えるかもしれないけど、なまえセンパイはちゃんと優しくて、しかもちゃんとみんなを見守っててくれる、すごい人だ。


「センパイ!俺、センパイが好きっス!」

「はぁ!?いきなりなに言ってんの!?」


その後、小一時間ほど無視されたけど、ずかずか歩くセンパイが耳まで真っ赤だったから、全然凹まなかった。
うん、やっぱセンパイかわいい。


へこたれません、勝つまでは
   
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