もっと冷たいのかと思ってた。
行儀なんて言葉を知らないように、膝に跨がって唇をなぞる指は、私が思っているよりも低い体温をしていた。
血色の悪さは自覚している。過ぎる程に白い肌と、紫に近い唇は、不健康で低体温な印象を与えるのだろう。


「先生は、思ってたよりあったかいのね」

「……なまえ、私は君の先生ではないだろう?」

「でもみんな先生て呼ぶよ?」


悪意なく傾げられた首に、出来るのは苦味を含んだ微笑だけだ。管理官という職業柄か、私を「先生」と呼称する人間は少なくない。普段であれば私も気に留めたりなどしないだろう。
私の胸中に気づかないまま、彼女は私の胸に頭を預けて甘え始める。緩みきった表情は、私がその髪に指を通すと更にふにゃりと崩れていった。まったく、いつの間にここまで甘くなってしまったのか。


「えへ。先生すきー」

「私もだよ」


幼子がするような稚拙な愛情表現が、私を癒し満たすようになったのはいつからか。義務教育を抜けた、しかしまだまだ子供と称される彼女は年齢よりも甘い言葉づかいをしているが、思考は時たま大人などよりも大人らしい仕草をするものだから、困る。
頬に押し付けては離れてを繰り返す唇に応えてやれば、幼さの抜けない笑顔が眼前に広がった。


白痴のふりがお上手ですね


「あ、HERO TVだ」

「おや」

「今日はいいの?」

「……そうだね、ついておいで」

「はぁい、先生」

「なまえ、先生ではなく」

「仰せのままに、ルナティック」


ふわふわと笑う少女は、「どうせ人前にはでないから」とパーカーのフードを目深に被るだけのお粗末な変装を終えて私の後ろをひょこひょことついて歩く。
なんて恐ろしい子供だろう。私の正義を正しく理解し、その上で私と共にいるなんて。盲信に近い彼女の正義を引き連れて、私たちは闇夜に消えた。
   
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テーマ「人外ファンタジー」
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