一方通行がわたしの家にやってきて、はやくも一週間が経過しようとしていた。
一方通行の味方になると決めたわたしではあったけれど、肝心の一方通行は未だにわたしとの友好を深める気はないようで、わたしたちの間にはまだ微妙な距離が存在している。
「んー……」
どうしたらもっと仲良くなれるだろう。別に会話に不自由してるわけじゃないし、ぶっちゃけ友好的で笑顔全開の一方通行は…………想像できない。うん。
それでも、彼とわたしにはなんとなく、なんとなーくだけれど、妙な間隔が空いているように感じてしまうのだ。どうせ一緒に生活するなら、多少の不安だって残さず取り除いてしまいたいと思うわけで。
「……う、」
課題はひとつも進まない。こないだ一方通行がさらりと解いてしまった問題の隣。参考書を開けば基本の公式は載っているのだから、それを当てはめればいい。わかっているのに、頭がショートしたみたいに働いてくれない。どうやらわたしの中では、課題よりも一方通行の方が優先らしい。変なの。
ちなみに一方通行はというと、朝からずっと自分の部屋でひたすらに本を読み漁っている。朝食は降りてきて食べたけど、それ以外は本当に篭りきりだ。ちらりと覗き見た本はなんだか難しいタイトルのものばかりで、わたしにわかるのはそれが科学関係の文章だってことくらい。……味方になると豪語したくせに、立派な役立たずだ。
……こんな状態で、頭が数式を飲み込んでくれるわけがない。言い訳のように呟いた「休憩しよ」。誰もいないリビングでは、そんな独り言もちょっと寂しかった。
生クリームを砂糖と一緒にボウルに入れて、泡立てる。そんなに量は多くないから、電動のミキサーはやめて泡立て器を使った。
ふわふわになったクリームに満足したら、そこにクリームチーズを同じだけ入れて、混ぜる。スポンジケーキは面倒だから、コーヒーを浸したクッキーで、クリームを挟むように重ねていく。ココアを振りかければ、そこにはティラミスが出来上がっていた。
料理がそんなに得意じゃないわたしが作れる、数少ないお菓子。見栄えこそそれなりだけど、味には自信があった。
「なにしてンだ」
「おわっ!?……ア、一方通行」
呆れるような視線。あ、そっかわたしはこの視線が苦手なのか。
「あのさ、課題全然進まなくて、それで、えと……気分転換に」
「お前が作ったのか、コレ?」
ちょっと大きく開かれた目の先に晒された、不恰好なティラミス。そうだよ、と頷くと一方通行はそれをじっと眺めた。
「で?」
「…………へ?」
「へ?じゃねェだろ、当然俺の分も用意してるよなァ?」
自分用とかふざけた事抜かしてンじゃねェーよ。色の白い指先がクリームを掬い上げて、そのまま唇に運ばれた。
行儀悪い。無意識に出た言葉に、一方通行は不機嫌そうに眉を寄せる。
あ、そっか。
ちょっと不機嫌そうで傲岸不遜な振る舞い。絶対に崩さない余裕の態度。これが、『一方通行』なんだ。
「ちゃんと一方通行の分もあるし。スプーン持ってくるからちょっと待っててよ」
返事はない。でも、彼は律義に待つのだろう。
気にしてばかりいた距離感とやらは、わたしが作り出していた幻想だったみたいだ。