器用に指を引っかけてシュルリとタイをほどくと、頭上から呆れたような笑い声が振ってきて、ついでに両手が自由を失った。


「こらこら、なーにしてんだ」

「……駄目?」

「だーめ」


こて、と首を傾げて可愛らしくおねだりしても、彼は決して首を縦には振ってくれない。
大人の余裕、ってやつだろうか。どんなに迫ってみても、虎徹さんは笑みをひとつ落としてわたしの頭を優しく撫でるだけ。悔しいと頬を膨らませるのは指摘されてからやめたけれど、代わりに唇を尖らせて、わかりやすく拗ねてみた。


「こども扱いしないでください」

「…俺から見たらまだまだガキだよ」


眉を下げて、困り顔で笑うのは狡い。わたしがそれ以上なにも言えなくなるって知っていて、虎徹さんはいつもその表情でわたしを宥めるように甘やかすように撫でるのだ。
彼の相棒よりは年下だけれど、それでもわたしは成人しているのに。こどもじゃない、のに。
すり寄るように、虎徹さんの肩に頭を押しつける。すん、と呼吸する度に、彼の体温であたためられたトワレが鼻腔を擽った。虎徹さんの匂いは、とても落ち着く。こういう拗ね方をするから未だこどものような扱いを受けているとわかっていても、これだけはやめられそうになかった。


「虎徹さん、」

「んー?」


わたしのそれよりも大きくてあたたかい掌が、名前を呼ぶ度に優しく撫でていく。
いつもわたしの心を満たしてくれたそれが、物足りないと言ったら彼は困るだろうか。ゆるゆると動きを止めないその袖口を上手く指先で捕らえて、小さく引いて。


「ん、どした?」

「足りないよ、虎徹さんが足りない」


捕らえた袖口を引いて、そのまま手首を緩く掴んだ。虎徹さんはされるがまま、基本的に虎徹さんは拒絶というものをしない。だからわたしも含めて誰も彼もが虎徹さんを頼り、慕い、愛するのだ。例外なんて存在しない。
でも、それは大きな隙を作り出している。彼は、身内の前では危ういくらい隙だらけだ。


「なまえ?」

「頭だけじゃ足りないの。わたし、こどもじゃない」


頭だけじゃなくて、頬も唇もカラダもココロも全て。
ねえ、それ以上のわがままは言わないから。あなたを独り占めもしないし、あなたの薬指を欲しがったりもしないから。
あなたの余りある愛のひとかけらを与えてくれれば、わたしはそれで満足できるから。
捕らえた手首を引き寄せて、掌に唇を落とす。きっと、虎徹さんはその意味を知らないだろう。だからこれはわたしだけの秘密になる。
好きです。愛してる。
さっきよりも更に隙だらけの唇に、獣よろしく噛みつくように口づけて、その身体を押し倒す。
薬指はそのままでいい。でも、いつまでも我慢できるほどわたしは強くないから、今だけそれ以外をちょうだい。




   
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -