唇が触れそうなほど顔を近づけると、その綺麗な瞳がきゅっと瞼に隠される。そんな反応がいちいち可愛らしいと思ってしまうのは、きっと自分自身が自覚しているよりもずっとずっと彼女を好いているからに違いない。くすりと笑みを溢すと、閉じられている瞼がぴくん、と震えた。かわいい。


「…………っ、バーナビー、さん」

「はい、なんですか?」


何もしないで、けれどその距離を変えることもなくて。不安に思ったのか、焦れたのか、それとも両方、だろうか。わざとわからない振りをしてみれば、そろそろと隠れた瞳が自分を映した。互いの呼吸さえ肌で感じられる距離を改めて視界で認識した彼女の頬は、真っ赤だ。


「ち、近いです!」

「僕はまだ足りません」


か細い声が自分の名を紡ぐのがこんなに心地好いのは、彼女限定。
もっと、近く。自制なんてどこか遠くへと放って、鼻先がくっつく位にまで、距離を縮めて。彼女の少し潤んだ瞳を見つめる。なまえの柔らかい色の瞳の中に映りこんでいるのが自分だけだという事実に、たまらなく心が満ちていった。


「好きです、なまえ」

「……わたしも、好きです」

「なら、ちゃんと見ていてくださいね。僕だけを、ずっと」


まるで誓約のような狡い言葉に、頷く彼女は酷く純粋でまっすぐだ。その純粋な心につけこむ、なんて矮小で、穢い。
自嘲に洩らした笑みの意味を、聡いあなたは気づいてしまうだろうか。お願いだから、気づかないで。言葉を発するよりも早く、なまえの唇を自分のそれで塞ぐ。
息を継ぐ余裕もないまま、時折くぐもった声が耳を掠めたけれど、知らない振りをして、彼女の唇を抉じ開けた。
膝に少しだけ重心をずらす、無理矢理に収まったカウチが軋んでも、気にも留めず意識は目の前のかわいい恋人にだけ、一点集中。呼吸を奪いあう、次第に頭が溶けていくのは、足りない酸素と甘ったるい空気、どちらのせいだろうか。


「………は、っ」

「顔、真っ赤ですね」

「だ、れの、せいだと…」


ああもう恥ずかしい。なんて。熱を持った頬を両手で包んで、彼女は弱々しくもこちらを睨み上げてくる。そんな風に睨まれたって、可愛いだけなのに。
恥ずかしいですか?と問う自分に返ってくる答えは「当たり前です」。
いじめたい、と思うのはそんな彼女の一挙一動が可愛すぎるせいだということにしておこう。


「これで参っていたら、もちませんよ」

「え、」

「だって、」


恥ずかしいのは、これからですから。
きっと今、自分の顔はこれ以上ない程に意地の悪い笑顔を浮かべているに違いない。
文句は再び唇で飲み込んで、細い指を絡めて、カウチに縫いつけてやった。




   
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テーマ「人外ファンタジー」
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