「お菓子なくなっちった」


ガサガサうるさいコンビニ袋に手を突っ込んだら、その中はもうすっからかんだった。アララ、たくさん買ったと思ったんだけどなー。
すぐ近くにコンビニがあるのはチェック済み。とりあえずもうホテルに帰るんだし、その前に寄ってこーと思って声をかけたらとたんにブーイングが降ってきた。いーじゃん別に。


「ホテルに戻ったらすぐに研究だって言っとるじゃろ」

「つーかどんだけ食べてんだよアル」

「えー、ヤダヤダお菓子ないとはかどんないもん」

「もんとかつけても可愛くねーぞ巨人め」


別に可愛いとか思ってないし。そんなんいいからお菓子買いに行きたい。
ちょっとずつイライラしてきたオレを敏感に察知してくれる室ちんはなんでかいないし、あーもう、ヤダヤダ。無視してコンビニ行っちゃお。


「あ、じゃあわたしが買ってきますよ!」

「そうか?悪いのぉみょうじ」

「悪いなみょうじ、まったくアゴリラは頭固くて嫌になるぜ」

「ワシ!?」

「もう暗いから気を付けろよアル」

「しかもスルー!」


不機嫌丸出しなオレのちょっとだけ後ろから聞こえた声に、一気にイライラが吹き飛んだ気がした。そうだった、オレのことよくわかってるのは室ちんだけじゃなかったんだった。
わーわーうるさいセンパイを丸め込んだマネージャーのなまえちんは、秋田に行くって言うオレに文句も言わないでついてきてくれた、かわいーカノジョ。きっとオレが癇癪を起こしそうになったのも、なまえちんにはお見通しなんだと思う。オレを見上げたなまえちんは「しょうがないなぁ」って感じで笑ってた。


「なまえちん行くならオレもー」

「敦がきたら本末転倒じゃない。ほら、敦の好きなやつたっくさん選んでくるからスカウティング頑張っておいで」


ほらほらとオレの背中を押すなまえちんの力はわたあめみたく軽くてふわっふわで、正直まったく押されてる感じはしなかったけど、もう背中向けてホテルに戻り始めてるセンパイたちを見て焦ってるのがなんか可愛かったから、観念してあげることにした。
あ、でも。


「ねー、なまえちん」

「ん?なぁに敦」

「スカウティング?頑張るからまいう棒多めに買ってきて」

「任せて!」

「あとねー」


頼もしい笑顔のなまえちんの肩に手を乗っけて、顔が近づくように屈む。笑顔が消えて、不思議そうにぱちぱち瞬きしてる目とオレの目を合わせたまんま、ちゅーしてやった。ちゅって音をたてて口を離すと、なまえちんは真っ赤になるのを知ってて、わざとらしく響かせる。予想通り、真っ赤になったなまえちんが可愛くて笑うと、恥ずかしいのが苦手な彼女は怒りだした。


「あ、ああ、敦っ!」

「だってお菓子ないんだもん、充電しとかないとオレ死んじゃう」

「わたしはお菓子じゃないんだけど!」

「ハァ?そんなん知ってるし」


お菓子は大好きだけど、なまえちんの方が何倍も大好きだよ。
当たり前の事なのに、なまえちんは真っ赤な顔で恥ずかしいと呻いてた。


「早く戻ってきてねー」


じゃないとお菓子もなまえちんも足りなくなったら、センパイの前でもっとちゅーするから。
割りと本気なのが伝わったのか、今度は真っ青になったなまえちんは必死でコンビニに走っていく。その背中をのんびり眺めてから、オレは上機嫌でちょっと遠くなったセンパイたちの背中を追っかけた。

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