「まこと」

「んー?」


名前を呼ぶと、間延びした声が返ってきた。
背中を向けたままでその表情はわからないけれど、やわらかいトーンのやさしい声のおかげで、真琴がどんな顔をしているか、見なくたってわかる。
でも、その顔が見たいなあとか、広い背中に抱き付きたいなぁとか、そんなヨコシマな感情がうずうずそ湧き上がって。
畳の上でごろんと横になって、お昼寝していたからだを起こして、そっと真琴の背中に近づいた。
しめしめ、ヤツめ気づいてないな。なんて心の中で悪役ぶってみたりするのは、内緒。


「まーこーと」

「ぅわ、と。…どうしたの、なまえ?」

「まことー」

「ん?」


背中に抱き付いて、ぎゅーって腕を回す。
その行為に特に意味はないけど、何となく甘えたい気分に任せてぎゅうぎゅう抱き付いた。


「どうしたの、怖い夢でもみた?」

「ううんー」

「そう?なら、よかった」


理由を言わないとき、真琴は言及しない。
深く追及しないのは、怖くならないのかな。そう思った時もあったけど、たぶん真琴は待っててくれてるんだと思う。
こっちから、話すのを。はるにもそうなのをよく知ってるから、それは真琴のやさしい性格がそうさせているんだと思うけれど。

それならそれで、やさしく頭をなでるのを、やめてくれないかなぁとも思うのだ。

だって、もっと真琴のことを好きになってしまう。

無意識のゼロセンチ


「真琴」

「ん?」

「すき」

「俺も好きだよ、なまえのこと」


本当に、無防備なんだから。
いつになったらちゃんと気づいてくれるのかな。
   
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