「ところで夕飯作るけど、好きなものとか嫌いなものとかある?」
「肉が食いてェ」
「残念、今日は鱈でしたー」
「くそったれ」
「ぇええ」
好き嫌いを聞いただけでどうして即日好物が作られると思うのか、一方通行の不機嫌そうな表情を不思議に思いながらも「明日はお肉にしよう」と考えるあたり、わたしもなかなか単純だと呆れた。
とりあえず、客間もちゃんと掃除しておいてよかったと思う。昼間に慌てて干した布団を畳に敷いただけだけど、まあなんとか寝られるだろう。
「一方通行の部屋はここね。必要なものがあれば随時足していく感じで、あ、でもあんまり散らかさないでね」
「散らかしようもねェだろ、この部屋」
一方通行が言う通り、この部屋には本当にほとんどなにもない。
とりあえず布団を敷いただけで、あとは畳だ。鏡台はともかくちょっとしたテーブルやゴミ箱なんかは置いてあげるべきだったかもしれない。
まあその辺も必要に応じて後々。頭の中で結論が出たところで、わたしは一方通行におやすみを言って部屋を出た。
一方通行のいた場所と、基本的な文化の違いがなかったのは幸いだった。お風呂の使い方とか、土足がどうこうとか。外国みたいに、もっと悪ければ文字通り「一から」教えなければいけないのではないか、なんて非常にめんどくさいと思っていたけど、そんなことは杞憂に終わった。
どうやら一方通行のいた場所も「日本」という国で、聞けばイギリスやロシアなどの外国も存在しているらしい。
だけど、わたしの住む日本とは確実に違う。ここには学園都市も、超能力も存在しないのだから。
「似ている、だけど全然違う世界、か……」
言葉にすれば簡素なものだけど、実際はとんでもないことで。
わたしがそんな目に遭ってしまったら。想像しただけで恐ろしく感じて、無意味にタオルケットを引き上げて、蓑虫みたいにくるまった。
そんな恐ろしい思いを、一方通行はしているのだろうか。なんでもないような顔をして、本当に普通に接している彼は、今も孤独と戦っていたりするんだろうか。
「……っ」
別にわたしは正義感溢れるようなタイプじゃないし、どっちかっていったら日々を享受して生きているタイプだ。面倒事に自分から首をつっこむなんて断固としてお断り。でも、一方通行がわたしの想像したような辛い思いをしているとしたら、それを知らん顔で過ごせるほど、わたしは器用じゃない。
結論。
わたしはくるまっていたタオルケットを蹴り飛ばして、一方通行の部屋へ向かう。ノックもしないで思いきり開け放した戸の向こう側には、布団に横になった状態の、でも顔だけすごいびっくりした表情でこっちを見てる一方通行がいた。
「おま、人が寝てンのに、」
「一方通行!」
「お、おォ」
「わたしが味方になるから!なんにも知らないこの場所は不安かもしれないけど、わたしは絶対に一方通行の味方だから!そんだけ!おやすみ!」
面食らったままの一方通行を余所に、言いたい事だけ言ったわたしは自室に戻る。
気分はただただすっきりとしていた。