「玲央ちゃん玲央ちゃん!」
「なぁに、」
どうしたの、と続くはずだった言葉は飲み込まれて、緩い衝撃を伴って胸の内に飛び込んできたそれを咄嗟に受け止めた。ふわりと甘い匂いが鼻腔を擽る。
「こら、いきなりぶつかってきたら危ないでしょ」
「うっ、ごめんなさぁい」
「で、いきなり熱烈なハグをかましてくれたのはどういう訳なの?」
眉を下げて謝罪を述べるも離れる気配のない彼女の頭を、子供にしてあげるようにぽんぽんとなでてあげる。それだけで、下降気味だった彼女のテンションはすぐに元に戻る、その可愛らしい単純さに笑みを漏らすと、飛び込んだ時と同様にぎゅっ、と抱きついてきた。
大袈裟に鼓動を速める心臓を悟られやしないか、せめて表向きくらいは動揺を見せないように平静を保つのは、とっても苦労が要ることを彼女はきっと知らないだろう。
「もう、本当にどうしたのよ」
「ストレスセラピーだよ!ハグってストレス緩和に良いんだって」
だからわたしを癒して玲央ちゃん!と言いながら、ぐりぐりと彼女は頭を胸の辺りに押し付けた。ちょっと、と焦ることすら無駄に高い自尊心は許してくれず、心臓の音は相変わらず煩いまま。
仕方がないわね、ってポーズを取っているのも、わざとらしいくらいに子供扱いをしているのも、全部がこの距離を保つための小狡い手段でしかない。
「好きだよ、玲央ちゃん」
きっと意味合いの違う、ただの純粋な好意の言葉でさえ、私はどうしようもなく苦しくなるから。
「私も、…好きよ、なまえ」
本心を隠した言葉に、保護者の振りをして優しく包む腕の真意に、「気がつかないで」と。祈りながら、その髪に口づけることを、どうか許してちょうだい。