「なんだ、お前もまた来ていたのか」


僕が声をかけると、それはくるりとこちらを向いて僕の眼をじっと見つめてきた。
帰路にある公園は、この時間帯になると風が柔らかく吹き抜ける。まだまだ暑いこの時期にここまで過ごしやすい気温になる場所は珍しく、最近はよく立ち寄るようになっていた。
隣にいるコイツは、僕がこの場所を見つけた時に出会った。意外にも人馴れしている様子から察するに、ただ野良暮らしをしている訳ではないようだった。首輪もないくせに、手入れされた毛並。きっとこの辺りに住んでいる人に良くしてもらっているのだろう。


「おいで」


近くのベンチに腰掛け手招きすれば、それは「にゃあ」と鳴いてから素直に僕の隣に座った。猫は気まぐれな生き物とばかり思っていたが、この猫はまるで人語を理解しているかのように振る舞うのだ。
ざぁ、と風が吹き抜けて、僕の前髪とコイツの尻尾を揺らした。柔らかなそれに目を細める。

「いい場所だな、風が気持ちいい」


ふと隣を見下ろすと、同じく目を細めたそれに、思わずくすりと笑声が漏れた。
ふらふらと尻尾を揺らしたそれは眠いのか、しぱしぱと瞬くものだから、指を喉元にやってくすぐってやった。途端にころりと寛ぎ出す小さな体躯。


「それにしても人に慣れているな、お前」


独り言のつもりだったそれに「まあね」と言わんばかりに鳴いて、睡魔に敗けたそれはついに目を閉じた。





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