「似た者同士ですね」

めんどくせーと顔を歪めたら先生に雑誌で叩かれたから痛い。私と先生が睨み合って暫くそうしていたら注文が入って慌ててたこ焼きをひっくり返す。どうやら先生は他の巡回に回るらしく一通りひっくり返して注文を消化し終わった時にはもういなくなってた。

「めんどくせー」
「しょーがないだろ、本職」
「バイトだっつの!!」

家の近くのたこ焼き屋で働いて彼此2年半、まさか学校祭の模擬店でたこ焼きを焼かされるとは思わなかった。いつもの黒いユニホームとは違ってクラスで色を揃えたTシャツの袖をブラ紐のところで丸め込んで、脇の下も同じように丸め込む。それから従業員用の豆絞りを頭にねじってつければ、シャツの形が違うだけのいつものスタイルで軍手をした手でアイスピックを回す。

「あ、やってる」
「亮介君、お疲れ様」

顔を出しにきたのだろう亮介君が柔らかな笑みを浮かべていて、私は味見用に用意されたプラスティックのトレーにたこ焼きを1つ、焼けてるのを置いてソースと鰹節に青のりをかけて亮介君に渡す。「あれ、もらっていいの?」と準備に一切参加しなかった引き目なのか彼が首を傾げるけれど私は「皆に内緒ね」と彼にたこ焼きを1つだけ押し付けた。

「上手いね、焼くの」
「そりゃ2年半これでお金貰ってたし」
「まだ辞めてなかったんだ」
「うん。卒業まで、辞めないよ」

最後の学祭、楽しんでねって亮介に微笑みかけたけどうまく笑えなかった。亮介君はたこ焼きを一口で食べて、「ああ、美味い美味い」と何度も頷くから私は嬉しくてだけどぶっきらぼうに「どーも」って可愛げのない返事をするしかないのがもどかしい。

「ちゃんと1パック買うよ」
「いいって別に」
「いくら?」
「……4個入り650円」
「ぼったくり」
「アハハ、同感」

たこ焼きをひっくり返す手が少し震えた。「野球部は?」と首を傾げると亮介君は教室の窓の少し奥をぼんやりと見ながら「さあ? 1年の教室でも見てるんじゃない」と言う。野球部はいつも一緒にいるイメージだったから珍しい。
教室の扉の近くでチケット係りがたこ焼き1つーって注文する聞こえ、慌ててたこ焼きを4個入りのトレーに入れて、ソースを塗る。亮介君は「手際いい」と横から私を褒めてくれた。

「お待ちー! たこ焼き1つー」
「あのさ」
「うん」

たこ焼き2つー! とまた声が聞こえる。教室の奥の方でお客さんが並んでいたから、きっと繁盛しているんだろう。

「どうも!ミス青道決定戦やります!!」

元気の良い宣伝の声が教室のチケット販売の方から聞こえた。「1年野球部春市です!」と声変わりしかけのテナーソプラノが続いて聞こえて、亮介君はポケットに手を入れてチケット販売の方を見てから、なにやってんだと苦々しく呟いた。知り合いでもいたのかな、たこ焼きをひっくり返してたからミス青道さんの方は見えない。かわりに亮介君を横目で見て「なんの話だっけ」って聞いたら、亮介君はミス青道を見ていた視線をこちらにやって私を見たまま動かなかったから手を止めて首を傾げた。教室の奥でまた、チケット係りがたこ焼きを求める。

「可愛い」
「……え?」

ミス青道そんなに可愛かったの? と聞くと亮介君はなんでもない、っていつもみたいに笑ってから私に背を向けた。私はプラスティックトレーにたこ焼きを5つ入れて、慌てて亮介君に渡す。亮介君は「だから、買うって」と言いながら私を見て、呆れ半分に笑うから私はもう注文の声も聞こえず彼にたこ焼きのパックを差し出すことしかできない。

「私、たこ焼きしか焼けないから!!」
「俺が野球しか出来ないのと一緒か」

俺達似てるねって皮肉混じりの亮介君はきっとなにより誰よりも優しい顔だったと思う。

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