屋上は秘密基地

「ごめん、次サボる」

いつもの毎日、いつもの時間。

友達にそれだけ告げて教室を出る。言われた友達の方も慣れたもんで、昼までにはもどんなさいよー?なんて適当な相槌を打ってくる。教室を出て廊下を歩き階段を登る。自分の足音だけがやたらと響く、静かな空間を静かに歩き続けて…


そのドアを開ける。


一気に広がる光の空間、顔に当たる風、私の大好きな場所。


後ろ手で静かに入ってきたドアを閉める。ため息を1つ小さく吐き出すと、顔を上げて前へと進んだ。開放感溢れるその場所は私にとっての大切な場所…

入口から死角となる場所へと動く、私のお気に入りの定位置。授業を抜け出して、ぼんやりしながら気持ちを整理するにはここ!と決めている場所に…


最近いりびたってやがるこいつ。


(また…)


その場所に座り込んだ見慣れたピンク色の頭、近づいてみるが、ピクリともしないでその体制でいる。よくよく見ると規則正しい胸の動き、肩の動き…

(…寝てんの?)

寝るなら違う場所に行けよって思いながら、となりに座り肩を揺すってみた。

「小湊ー?ねえ、こーみーなーとー?」

結構強く揺すっていたと思うんだけど、一向に起きる気配がない。よっぽど深く眠り込んでいるのか…


諦めた私はとなりに座り、いつものように目を閉じた。風が気持ちいい、日常の騒音から逃れて気持ちが楽になっていくのがわかる。

ふと、となりに視線をやるとぐっすり眠った小湊の顔。ほんと、キレイな顔しちゃってるんだから…

「こみなとー?」

ちょっと顔を近づけて、覗き込んで名前を呼んだ。
疲れてんのか、ピクリともしない。そういえばコイツ野球部だった。日頃の練習もキツイだろうし、授業中なんて眠くてたまらないんだろうなぁ…
日中、外で野球をしてる割にあまり日に焼けてなくて、至近距離で見てるからだろうか、整った顔立ちなのを再確認した。

「おきないのー?」

「こみなとー?」

「おーい、こみなとくーん…」

何度か呼びながら覗き込んだけど、深い呼吸音が聞こえるだけで起きる気配は全くない。ずっと前からキレイな男の子だなぁって思っていたけど、遠くから見るだけで。この場所で偶然会ってから何度か一緒にサボるようになって…


「いたずらしますよー…」


そう小さく言いながら、彼の頬に唇を寄せた。

あと少しで触れる、その瞬間…

その顔が、ゆっくりこっち向いた。


『いたずらって何さ?』

「…っ!起きてたの?」

『ん?うん、まあね』

「えっ? …どこから?」

『こーみーなーとー…  だっけ?』

「…っ!」


恥ずかしくなって顔を背けてその場から立ち去ろうとした時、咄嗟に手をつかまれてその場に固まった。

振り返ってヤツの顔を見ると、いつものキレイな顔で少し微笑みながら


『ね、何しようとしてたの?』

「なっ… なんでもない!」

『へぇ?』


顔がどんどん熱くなる。お願い離して、そうじゃないと…


「…してもいいの?」

『いいわけないじゃん』


その言葉にまた固まる私、クスって笑いながら近づいてきて…


『…バカがうつっちゃうでしょ』


小さく耳元で聞こえて、リップ音もついてきた。


「…っ!なにす『さ、教室もどるよ?』


その場から立ち上がり、さっさと離れていく。小さな音のした場所を片手で押さえながらその背中に向かって言うつもりのなかった一言をつぶやいてみた。


「…好き」


背中が立ち止まる、ちょっとだけ振り向いてまた明日ねって、動いた口。


また吹いてきた気持ちいい風、いつもなら日常の騒音から逃れて気持ちが楽になっていく風なんだけど、今日に限ってはそんなことなくて、ただただバクバクと音を立てる心臓がうるさくて、さっき掴まれた手と触れられた頬が熱くて教室なんか戻れる状態じゃなかった。いつものように気持ちはリセットされなくて、明日は今日とは違う、何かが違う今日が始まるんじゃないかっていう気持ちになった。


(バカ…  うつしてやろうじゃん)


さっきヤツの寝ていた場所、そこに座って私も目を閉じた。

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